フランスを代表する郷土料理の一つ「カスレ」。フランス南部に位置するオクシタニー地域圏ラングドック地方を発祥とする“おふくろの味”は、ビストロの定番メニューとしても欠かせない料理です。今回はフランス人にとって、ひときわ愛着の深いカスレをご紹介します。
フランス人がこよなく愛する「カスレ」とは
フランス南部のラングドック地方で生まれたカスレ(cassoulet)は、フランスを代表する伝統的な郷土料理です。料理名の由来にもなっている「カソール(cassole)」と呼ばれる土鍋で、たっぷりの白インゲン豆と一緒に、塩漬けの豚肉、ガチョウや鴨、アヒルのコンフィ、ソーセージといったシャルキュトリを長時間煮込み、仕上げにオーブンでこんがりと焼き色を付けます。白インゲン豆がお肉のうま味をすっかり吸い込むまでじっくり煮込むコク深さと香ばしさがくせになる味わいです。
フランス南部の農村に根付く素朴な家庭料理のカスレは、もともと豆が主役のシンプルなシチューで、あり合わせの肉を加えていたもの。弱火でグツグツと長時間煮込み、農作業の多い収穫期に大きなテーブルのメインディッシュとして登場していたようです。南フランスで話されているオック語で「estufat」(シチュー)や「fevoulat」(豆のシチュー)と呼ばれることもあります。
時間のかかる煮込み料理で、家族の集まる日曜の食卓に出されることの多かったカスレは、懐かしい郷土の味、おふくろの味。切手になってしまうほどフランスを代表する料理の一つなのです。
中世にまで遡るカスレの起源
カスレの起源は、14世紀にイングランドとの間に起こった百年戦争にあると言われています。また、60年間にわたって複数の国王の料理人を務めたタイユヴァンが書いた、最古の料理本の一つである『Le Viandier』(1654年出版)には、アラブ料理からヒントを得たと思われる、ソラマメ入りマトンシチューのレシピが記載されていることから、カスレのルーツはアラブにあるという説もあります。
あり合わせの材料で作られてきた家庭料理だけに、地域によって材料も異なり、レシピもさまざまですが、愛着が深まるあまり!? フランスではさまざまな論争が繰り広げられてきました。カスレにまつわる論争とは一体どんなものでしょうか?
今も続く本家本元争い!?
フランス南部各地にさまざまなレシピが存在するカスレですが、代表的なものは、次の3つの町のカスレです。
・カステルノーダリ(Castelnaudary)
・カルカッソンヌ(Carcassonne)
・トゥールーズ(Toulouse)
この3つの町では、今もカスレの本家本元争いが繰り広げられているのです!
それでは、それぞれのカスレの特徴を見てみましょう。
・カステルノーダリのカスレ(Cassoulet de Castelnaudary)
フランスとイングランドの間で行われた百年戦争(1337-1453)で、このカステルノーダリがイギリス軍に包囲された際、兵士を元気づけるためにあり合わせのもので作られた豆のシチューがカスレの起源と言われています(ちなみに、この戦いでフランス軍は勝利)。
14世紀末にイタリア人の陶芸家がカステルノーダリ近郊の町イッセルで、アイセルの粘土を使ってこの料理専用の土鍋「カソール(cassole)」を作りはじめ、そこから「カスレ」と呼ばれるようになったという料理名の由来も、カステルノーダリが“カスレの本家”として最有力とされているところです。
カステルノーダリのカスレは、白インゲン豆、ガチョウのコンフィ、豚のすね肉または肩肉、ソーセージ、料理のベースとなるスープを作るために玉ねぎとニンジンも使われます。
・カルカッソンヌのカスレ(Cassoulet de Carcassonne)
赤ウズラがコンフィの代わりになり、ソーセージではなく、羊肉が加えられます。
・トゥールーズのカスレ(Cassoulet de Toulouse)
フォアグラの名産地でもあるトゥールーズのカスレでは、鴨やガチョウのコンフィ、そして何より地元の特産であるトゥールーズソーセージを使うことが伝統となっています。そしてクローブを散りばめたニンジンとタマネギが入っています。仕上げにパン粉をまぶして焼き上げる場合もあります。皿の表面に形成されたクラストを焼く際に壊す回数は、専門家の間でも議論されています(バージョンによって6~8回)。
上記の特徴は一例に過ぎませんが、この3つのコミューンの住民の間では、「どれが本来のカスレか!?」「わが町のカスレこそ本家!」という議論がいまも絶えないようです。各地域でも決まった材料やレシピがあるわけではなく、シェフも独自の味わいを追求していますが、それくらいカスレに対する熱いこだわりがあるということですね!
文化人から始まった熱いカスレ論争!
そもそもカスレの起源をめぐる論争は、1890年に文芸誌「La Revue méridionale」が「唯一の本物のカスレは、カステルノーダリ産である」という記事を掲載したことに端を発します。作家のアナトール・フランスは、「カステルノーダリのカスレとカルカッソンヌのカスレを混同してはならない」と言い、1900年頃グルメ評論家のエドモン・リシャールタンがパリの新聞でこの問題について議論を始めたことで、このテーマは国民的なものとなったのです。
カルカッソンヌ出身の有名シェフ、プロスペル・モンタネ氏は、著書『Le Festin Occitan』の中で、キリスト教の「三位一体」になぞらえ、次のように述べています。
“カスレはオクシタン料理の神様です。「父なる神」はカステルノーダリのカスレ、「子なる神」はカルカソンヌのカスレ、そして「聖霊」はトゥールーズのカスレなのです”
この言葉については、「父なる神」としたカステルノーダリのカスレの優位性を認めたものとも、三つのカスレのどれもが本質で、優劣はなく平等に価値があることを意味しているとも言われています。
真剣に起源を追求するというよりは、議論好きなフランス人ならではのカスレ愛のカタチのように見えます。それぞれのこだわりの味を楽しむのもよし、自分なりの好みを追求するのもよし。さまざまな議論ができるのもカスレの奥深い魅力かもしれませんね!
本格的なカスレをお取り寄せしよう!
ここまで読んで、「フランス人にそこまで愛されているカスレを食べてみたい!」と思った方も多いのではないでしょうか? でも、自作して長時間煮込む手間暇をかける余裕がない、あるいは近くにカスレを出しているお店がない、今は外食は控えたい…などの場合におすすめなのが、お取り寄せです。
「A TABLE!」では、自家製のトゥールーズソーセージと合鴨のコンフィを使った、カソール入りの本格的なトゥールーズスタイルのカスレをご用意しています。解凍してオーブントースターで温めるだけで、本格的な味が簡単に楽しめます。「おうちビストロ」で、ぜひ赤ワインとともに味わってみてください。
(参考)