ハム発祥の地、本場フランスのジャンボン(ハム)とは

フランスは加熱ハムの生産がヨーロッパ第1位の国。フランス人はハム、フランス語で「ジャンボン(jambon)が大好きです。フランスの多彩なシャルキュトリ(食肉加工品)中でも、もっとも庶民的で日常になくてはならない「ジャンボン(ハム)」をピックアップします。

「シャルキュトリ規定書」によって受け継がれる伝統製法

フランスの食文化になくてはならない「シャルキュトリ(charcuterie)」。豚肉やジビエなどを使った「食肉加工品」とその販売店を意味します。地方によってもさまざまなレシピがあり、ワインのように豊かな地域性も魅力。その伝統的製法は「シャルキュトリ規定書」によって細かく定められ、品質が守られています。そして、厳しい基準をクリアし、認定を受けた地域ブランドが多彩です。ソーセージと並ぶシャルキュトリの代表格である「ジャンボン(ハム)」も、ソーセージと同様、歴史の長い食材です。

古代ローマ時代からフランスのハムは有名

世界中で親しまれているハムは、古代ローマ時代のフランス(当時のガリア)が発祥という説があるほど、フランスでは古くからハムが親しまれてきました。古代ローマ時代にはすでにハムとソーセージが販売されており、当時から「ゴールのハム」(ゴールは「ガリア」のこと)はあまりにも有名で、ローマにも輸出されていたそうです。当時ハムを発展させたのは、ゴール人だったのです。ハムは保存食であると同時に、お金のように価値交換の手段でもありました。

中世になると塩漬け、燻製、油漬けといったハムの製造法は、ガリアからドイツ人、ローマ人、イベリア人へと伝わり、それぞれの地域でアレンジされていきました。そして、特別な日にいただく豊かさの象徴として、ヨーロッパ中に広まったハムが食卓を飾る様子は、パリのノートルダム大聖堂、サン・ドニのバシリカ、パルマの洗礼堂など、礼拝堂のフレスコ画やステンドグラスの一部に見ることができます。ローマ帝国では高く評価され、皇帝の食卓にも並ぶものでした。

フランスのハムは、あっさりした味わいと歯ごたえの良さが特徴

私たちが使っている「ハム(ham)」という言葉は英語で、フランス語ではハムを「ジャンボン(jambon)」といいます。「脚」を意味する「ジャンブ(jambe)」に由来し、英語でもフランス語でも、ともに「豚のモモ肉」を意味します。そして、その名の通り、フランスでは基本的に「ジャンボン」には豚のモモ肉のみを使用します。よく動かすモモ(後ろ足の上部)の肉は、他の部位に比べて脂肪が乗りにくいため、脂身の少ない赤身で、歯ごたえがあり、あっさりした味わいが特徴です。

製法別に見るジャンボンのタイプ3つ

フランスのジャンボンは、製法別に大きく3つのタイプに分けることができます。

加熱ハム:ジャンボン・キュイ(jambon cuit)

「キュイ(cuit)」は「加熱調理した」という単語で、そのまま「加熱したハム」という意味になります。豚モモ肉を塩漬けにした後、骨を取り除き、蒸気過熱します。野菜のブイヨンで香りと風味を加えることもあります。フランスは加熱ハムの生産がヨーロッパ第1位の国で、その生産量はヨーロッパ全体の28%に相当します。

最もポピュラーなのは「ジャンボン・ブラン(jambon blanc)」(白ハム)とも呼ばれる「ジャンボン・ド・パリ(Jambon de Paris)」。もともとはパリとパリ近郊で職人によってつくられていたものがフランス中に広まりました。「パリ」という名称がついていますが、原産地表示や特定のレシピがあるものではなく、今では一般的な白ハムの呼称となっています。手頃で扱いやすく、あっさりした味わいの加熱ハムは、日常的な軽食に欠かせません。

非加熱ハム(生ハム):ジャンボン・セック(jambon sec)

「セック(sec)」は「ドライな、乾燥した」という意味。塩漬け後に塩を抜き、乾燥させ乾燥熟成させます。乾燥熟成期間に応じて、4カ月未満のものを「ジャンボン・クリュ(jambon cru)」(生ハム)、4カ月以上のものを「ジャンボン・セック」(乾燥ハム)と呼び、区別しています。最高級品には熟成期間が3年に及ぶものもあり、乾燥熟成期間が長くなるほどにうま味が凝縮され、高級品とされます。

そのフレッシュな風味を生かして、薄切りにしたものを生のフルーツと合わせて前菜にしたり、パンに挟んでサンドイッチにしたりと、さまざまに楽しめます。フランスの有名な生ハムの産地として、バイヨンヌ、アルデンヌ、ラコーヌ、オーヴェルニュなどがあります。

燻製ハム:ジャンボン・フュメ(jambon fumé)

フュメ(fumé)は「スモークした、燻製にした、いぶした」という意味。塩漬けにしてうま味を引き出してから、乾燥させながら煙に燻すことで保存性を高める加工技術です。燻製は温度によって、熟燻、温燻、冷燻の3つの方法があります。生ハムやスモークサーモンには、低温(16~22℃)での熟成によって風味とうま味を向上させる「冷燻」が施されます。ジャンボン・フュメには非加熱タイプ(生ハム)が多いですが、加熱タイプもあります。香り高い燻製ハムは、ワインはもちろん芳醇な香りのウイスキーともよく合います。

ジャンボンを使った簡単レシピ

フランスではおなじみの、ジャンボンを使ったメニューのレシピを簡単にご紹介します。

ジャンボン・ブール(Jambon-beurre)

「ジャンボン・ブール」は英語で「ハムバター」という意味です。縦半分にカットしたバゲットに、たっぷりのバターとジャンボンだけを挟んだシンプルさが魅力。フランスのどこのブランジュリー(パン店)にも置いてある大定番の一品です。ぜひバターとバゲットも上質なものを用意して試してみてください。

クロック・ムッシュ(Croque-monsieur)

1910年にパリ・オペラ座近くのカフェで考案されたホットサンドで、今やどこのカフェにもある代表的な軽食メニューです。スライスした2枚のパンに、固めに仕上げたベシャメルソース(ホワイトソース)を塗り、薄切りにした加熱ハムとチーズ(グリュイエールチーズやエメンタールチーズなど)を挟みます。その上に残りのベシャメルソース(ホワイトソース)を塗り、チーズの残りを載せオーブントースターなどで軽く焼き色が付くまで焼きます。お好みでコショウやパセリなどを振って出来上がり。このクロック・ムッシュに半熟の目玉焼きを載せたものは「クロック・マダム(Croque-madame)」と呼ばれます。

ガレット・ド・サラザン(Galette de sarrasin)

「ガレット(galette)」は、生地にソバの全粒粉を使った甘くないクレープです。「サラザン(sarrasin)」とは、ソバのこと。小麦栽培に適さず、ソバの産地として知られるガレット発祥の地・ブルターニュ地方の名前を冠した「ガレット・ブルトンヌ(Galettes bretonnes)」(ブルターニュ風ガレット)とも呼ばれる、最も伝統的でシンプルなレシピをご紹介します。フライパンにバターを溶かして丸く伸ばしたガレット生地に、チーズ(グリュイエールチーズなど)と加熱ハム、最後に卵焼きを中央に載せて、生地の端を四角に畳みます。仕上げに塩、コショウ、彩りにパセリなどを振れば完成です。トマトやレタス、タマネギ、キノコなどを加えてもいいでしょう。普通の小麦粉のクレープで包んでもおいしいですよ!

フランスの多彩なシャルキュトリの中でも、調理する必要がなく、多くはカットする必要すらないジャンボンは、忙しい現代社会生活において、食卓に欠かせない強い味方です。簡単に用意できる軽食から、おしゃれなブランチや前菜まで、シーンに応じて幅広く活躍してくれるジャンボン。そのままなら、ワインなどアペロ(食前酒)のお供にも最高です! フランスのジャンボンレシピを参考に、もっとハムを楽しんでみてはいかがでしょうか?

(参考)
「ハム&ソーセージ大全」(スタジオタッククリエイティブ)

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