最近、日本でも耳にするようになってきた「アペロ」。フランスでは、日常的に“On prend l’apéro?(アペロしない?)”と声を掛け合い、家族や友人とアペロを楽しみます。もちろんアターブルのフランス人シェフ、マチューもアペロが大好き。大好きすぎて、アペロブランドとして、この「アターブル」を立ち上げたほどです(笑)。今回はフランス人がこよなく愛するアペロについてご紹介します。
「アペロ」は、フランス語で「アペリティフ」の略
「アペロ(apéro)」は、フランス語で「食前酒」を意味する「アペリティフ(apéritif)」の略語で、語源は、「開ける」を意味するラテン語の「aperire」と言われています。フランスでは、1751 年に思想家ディドロを中心に編纂された「百科全書」で、「アペリティフ」は医学的用語として「排泄への道を“開く”薬」と説明されています。医師が処方する薬だったのがはじまりです。
現在、フランス語で「アペロ」というとき、食前酒そのものを意味するだけではなく、「食前酒を楽しむ体験・時間」も表します。アペロは、飲むものであると同時に「するもの」。お酒を片手に、おつまみをつまみながら会話を楽しむ。日本の「ちょい飲み」「晩酌」の感覚に近いかもしれません。日が長く、おしゃべりが大好きなフランス人は、「軽く一杯」のつもりが、肝心の夕食そっちのけで延々とアペロすることもしばしば。フランスでの人付き合いに欠かせない習慣であり、生活文化となっているのです。
2022年にフランス人1,000人を対象に行われたアペロに関する調査によると、9割の人がアペロを自宅で楽しむ習慣を持ち、32%の人が週に1回以上アペロを楽しんでいると回答。6割の人が誰かとアペロを楽しみ、一緒に過ごすのは「友人や親戚」(96%)、「パートナー」(89%)、「家族」(87%)と回答しています。約4割の人は一人でもアペロを楽しみますが、ごくたまにしかないとのこと。
別の調査では、7割近くもの人が週に1回はアペロを楽しむというデータもあり、調査の内容によってまちまちですが、多くの人にとってなじみ深い習慣であることは間違いありません。コロナ禍で、外出が制限されたときには“オンラインアペロ”が広がりました。気の置けない人たちと当たり前のように楽しんでいたアペロが、単なる食事前の儀礼的習慣ではなく、人と人をつなぐ大切な時間だったことを、多くの人があらためて認識することになりました。
アペリティフの歴史―先進国イタリアで花開いた文化
現在は大切なコミュニケーションの場となっているアペロですが、もともとの「食前酒」としての成り立ちはどのようなものだったのでしょうか。歴史を紐解いてみると、食前酒は古代から、特にエジプト、ギリシャ、ローマで知られていたといわれています。ローマでは、満腹になるまで飲んだり食べたりする前に、蜂蜜とアンブロシア(蜂蜜から作られた風味のある飲み物)を入れたワインを飲んでいました。各地にはさまざまな習慣が伝わっていますが、共通して「消化を改善する」という「治療」の目的がありました。
時は流れて18世紀。食前酒の世界に革新を起こしたのは、その生産と消費のパイオニアだったイタリアです。南アルプスの麓・イタリア北部に位置するトリノで1757年に創業したチンザノ社のベルモット(白ワインをベースに、ニガヨモギ、ディクタム、シナモン、クローブなどの数種~数十種の薬草、ハーブをブレンドしたフレイバードワイン)が大ヒット。独特の苦みが特徴のこのお酒は今も大人気です。チンザノ社に続いて、カンパリやマルティーニなど、現在でも世界的に人気を博している酒造メーカーが続々と誕生し、食前酒文化が一気に花開きました。
フランスでは、マラリア治療の薬から嗜好品へ。社会的大問題が勃発!
さて、フランスで食前酒が生まれたのは、イタリアとスイス国境に接するサヴォワ地方といわれています。アルプスの3000メートル級の山々に囲まれた風光明媚な山岳地帯であるサヴォア地方は、ヨーロッパ最高峰のモンブランを擁する美しい大自然に恵まれた、植物とハーブの宝庫です。ここでは、ニガヨモギ、アニスシード、ゲンチアナといった「薬草」をアルコールで蒸留して “薬”を作る習慣がありました。
そして、イタリアで花開いた食前酒文化が、かつてイタリア領だったこのサヴォア地方を経由してフランスに広がっていきました。南のエロー地方では、1811年に植物学者のジョセフ・ノワリーが、ピレネーとラングドックで採れたハーブを地元の白ワインに漬けることを考案。これが、現在でもフレンチベルモットのトップブランドとして君臨しているドライベルモットの「ノイリー・プラット」です。
1846 年には、化学者のジョセフ・デュボネが、特にアフリカに派遣された植民地兵士のために、当時大流行していたマラリア対策用の治療薬の風味を改良しました。白ワインをベースに、マラリアの特効薬・キニーネ(南米原産の薬木キナの樹皮から抽出された成分)を入れた苦い飲み物にハーブとスパイスを加えたのです。その飲み物は、キニーネ入り飲料のコンテストで優勝して一躍有名になりました。それでも、嗜好品として飲むほどおいしいものではなく、薬草酒という範疇を超えるものではなかったようです。
それが、植民地政策による砂糖産業の発展によって、食前酒の世界も一変。苦い薬草酒に砂糖を入れることで苦味が和らぎ、飲みやすくなりました。そのうち、社交の場で食前酒がつきものに。その様子は小説や印象派の絵画でも多く描かれました。食前酒の人気が高まるにつれ、大きな社会問題も持ち上がりました。それは、アルコール依存症の急増。その中には、ゴッホやロートレック、ユトリロといった偉大な芸術家たちもいました。食前酒として人気を博したお酒は、アルコール度数が40度、45度と、どんどん高くなっていたのです。医師たちは、食前酒を“薬”として食前の空腹時に飲むことを奨励する一方で、飲みすぎへの警鐘を鳴らしました。
イギリス王子のアペロドリンクがフランス上流階級で大ブレイク!
1900年代、労働者階級にアルコール依存症が増えていく一方で、「わたしたちはそんな下品な飲み方はしない」とばかりに、フランスの上流階級は新しいアペロドリンクに熱中しました。そのトレンドを持ち込んだ“インフルエンサー”は、パリで豪奢な暮らしを送っていたイギリスのヴィクトリア女王の息子、プリンス・オブ・ウェールズ(後のエドワード7世)。彼の影響でフランス社交界に広がった新しいアペロドリンクとは? そう、アメリカで生まれた「カクテル」です。
庶民が上流社会に憧れ、マネをするようになるのは世の常。庶民の間でも、食前酒としてカクテルが浸透していきました。そのころのカクテルはジンやコニャック、シャンパンで作られたもの。薬草やハーブの要素はありません。こうして食前酒は、アルコールによる「食欲増進」や「食事の前にみんなで一杯やる」という現代の在り方がメインになりました。
フランス人はアペロで何を飲んでる?―ノンアル、クラフトビールが台頭
仕事終わりに、週末に、バカンスに! アペロを愛するフランス人は今はどんなお酒を飲んでいるのでしょうか? 2019年に雑誌『Rayon Boissons』のためにハリス・インタラクティブ研究所が実施した調査から、フランスでアペロとしてよく飲んでいるお酒ランキングをご紹介します。
- ウイスキー
- 白ワイン
- シャンパン
- リキュールワイン
- ビール
- パスティス
- ロゼワイン
- ソーダ
ちなみに、カクテルではモヒートが圧倒的人気で、次点にサングリア、ジントニックが続きます。もちろん、性別、年代、地域によって全く違う結果が出ると思いますが、ウイスキーを楽しむ人も多いようですね。
5位に食い込んだビールは、クラフトビールの台頭が目覚ましく、1985年にはフランスに25しかなかったビール醸造所が、現在は約2,000と激増! バーでもクラフトビールの人気が高まっているとか。
そして、ノンアル市場の急成長も見逃せません。フランスでも日本同様、若者世代のアルコール離れが見られるほか、飲酒運転への取り締まりが厳しくなったことや健康上の理由から、ビール、ワイン、カクテルが好きなフランス人も、ノンアルを選ぶ人が増えています。アルコール飲料全体の成長率が0.7%なのに対し、ノンアル飲料は毎年10~12%と目覚ましい成長ぶり。バージンカクテル(ノンアルのカクテル)の販売数は、2015 年から 2019 年の間に17%も増え、ノンアル蒸留酒市場も活況を呈しています。
また、フランスでもベジタリアンへの関心が高まりつつあり、香り豊かなハーブや果物、野菜を使ったカクテルや蒸留酒が登場しています。ワイン王国・フランスにも、多様性の波が訪れているようです。
フランス人はアペロで何を食べてる?―プレミアム化とプラントベースに注目
さて、アペロのお供としては、今フランス人はどんなものを食べているのでしょうか。2022年にアペリティフ・ア・クロッカー組合による調査でわかった理想のおつまみランキングの上位をご紹介します。
- カリカリ食感のおつまみ(塩味のビスケット、チュイール、殻付きナッツ、ドライフルーツなど)(85%)
- オリーブ(55%)
- 生野菜(51%)
- チップス(49%)
- シャルキュトリ(49%)
- 手作り料理(48%)
- スプレッド、ペースト(45%)
- チーズ(40%)
3位の「生野菜」は、お酒に見られるビーガン/ベジタリアン志向の表れでもあります。そのほか、ピクルスや野菜チップス、野菜のマリネ、タプナード(ニンニクやケッパーで風味付けしたオリーブのペースト)、フムスなど、プラントベースのヘルシーなおつまみが人気です。
また、「プレミアム化」もお酒とおつまみに共通するキーワードの一つ。こだわりの地元産クラフトビールや職人技のジンなどの上質なお酒に、田舎風のハムや伝統的なチーズなど、おいしいお酒と一緒に味わいたいこだわりのおつまみが選ばれています。
アペロの望ましいおつまみの条件については、「誰にでも喜ばれる」(55%)、「食べやすい」(48%)、「シェアしやすい」(43%)、「準備がいらない」(25%)、「多様性と選択肢がある」(20%)などが挙げられています。招く方も手間をかけず、招かれる方も気兼ねなく楽しめる。そんな肩肘張らない空間とゆるい雰囲気が、楽しいアペロをお膳立てしてくれます。
何かとがんばって「おもてなし」してしまいがちな日本人ですが、大切なのは一緒に楽しむこと。フランス流のおおらかさで、気楽な「アペロ」を楽しんでみませんか?
アターブルのアペロ商品で、アペロを楽しもう!
アペロをこよなく愛するフランス人シェフのマチュー・トウサックが立ち上げたアペロブランド「アターブル」では、アペロにぴったりのフランスの味とお酒をとりそろえています。プロが一つ一つ心を込めて手作りするできたての味を、冷凍でお届け。お好きな時にいつでも自宅の食卓がビストロに変わります。冷食の概念が覆る美食体験を、ぜひ友人やパートナー、ご家族と一緒にお楽しみください!
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(参照)