ワイン大国のフランスでは、リンゴで造るスパークリンワイン「シードル」も人気です。産地の伝統的な食文化の一部として根付いているシードルの歴史やおいしい楽しみ方をご紹介します。
シードルは、リンゴで造るスパークリングワイン
日本でもおなじみの「シードル(cidre)」はフランス語で、微発泡性の“リンゴのワイン”のこと。英語では「サイダー(cider)」と言います。日本でサイダーといえば、ラムネのような炭酸飲料のイメージがありますが、シードルのことなんですね。シードルは、シードル専用の品種のリンゴを搾った果汁を発酵させてつくります。発酵期間は数週間から数カ月と短く、アルコール度数は通常2〜8%程度です。味わいには、スパークリングワイン同様のタイプがあり、その違いは主に糖度とアルコール度数にあります。発酵期間が長いほど、糖がアルコールに変化するため辛口になります。
<主な4タイプ>
・Extra-Brut(エクストラ・ブリュット:極辛口)標準的な「Brut」よりもドライな辛口です。
・Brut(ブリュット:辛口)フランス語で「生」を意味するスタンダードな味わいです。アルコール度数4.5~6.5度。食前酒として、風味のある料理やシーフード、チーズと合わせることが多いです。
・Demi-sec(ドゥミセック:甘口)直訳で「半辛口」を意味しますが、味わいとしては甘口に属します。
・Doux(ドゥー:甘口)…アルコール度数3%以下。発酵時間も短く、フレッシュ。1月6日の「エピファニー(Epiphanie:日本語では公現祭)」を祝って食べるガレット・デ・ロワや、クリスマス(12月25日)から40日後の「シャンドゥルール(Chandeleur)」のお祝いで食べるクレープなどのスイーツやデザート、パンケーキなどと一緒に飲んだりします。
一般的なシードルは通常アルコール度数が低く、保存料も使用されていないため、ワインのような「長期熟成」には向いていません。シードルの新鮮さとフルーティーな風味を楽しむため、賞味期限は生産後1〜2年とされています。
秋にリンゴの収穫を行って搾汁し、冬場の発酵を経て、春に新酒シードルのお目見えとなります。春になると、主要産地ではお祭りでシードルの新酒をお祝いします。
ちなみに、シードルを蒸留したブランデーは「カルヴァドス(Calvados)」といい、ノルマンディーが発祥とされるアップルブランデーの一種。コニャック、アルマニャックと並ぶ「世界三大ブランデー」の一つとしても知られています。「オー·ド·ヴィ」(Eau-de-vie:生命の水)と呼ばれ、熟成年数によってさまざまな味わいがあるのが魅力です。
1日1杯のシードルで医者いらず
シードル自体の歴史は非常に古く、その起源は紀元前6000年頃にまで遡り、中東のメソポタミア文明で最初に発酵飲料としてリンゴが使用されたと言われています。古代ローマ時代には、ローマ人がイギリスにリンゴの栽培技術を持ち込み、シードルの原型となるお酒が誕生。フランスでのシードル造りは12世紀以降に圧搾機の発明とともに発展し、絶対王政の最盛期を築いた太陽王として知られるルイ14世やナポレオンも好んで飲んでいたそうです。
第二次世界大戦中には、フランスではワインの材料が不足したため、シードルが重要な飲料となりました。“Un cidre par jour éloigne le docteur pour toujours.” (1日1杯のシードルで医者いらず)というフレーズがあるほど健康にも良いというイメージがあったようで、実際戦時中のフランスではシードルを飲むことが推奨されていたそうです。
名産地として特に有名なのは、フランス北西部に位置するノルマンディー地方とブルターニュ地方、そしてピレネー山脈を挟んでフランスとスペインにまたがり、歴史ある独自の文化と言語を持つバスク地方の三つです。各地方のシードルの歴史と文化について見てみましょう。
1.ノルマンディー地方
ノルマンディーはリンゴの栽培に最適な気候と土壌を兼ね備えたリンゴの名産地で、フランス最大のシードル生産地です。特にペイ・ドージュ地区はシードル、カルヴァドスのAOC(原産地名称保護)認定によって品質が保証されている名産地として知られています。同じくノルマンディーの特産であるカマンベールチーズ(ノルマンディー地方のカマンベール村が発祥)などとの相性も良く、伝統的なシードルの味わいが楽しめます。
ノルマンディーでは9世紀頃から修道院でシードルが製造され始め、特に12世紀頃から本格的にリンゴの栽培が広まり、16世紀には大規模な生産が行われるようになったと言われています。17世紀には貴族や庶民の間で広まり、19世紀には産業革命の影響で機械化され、大量生産が可能になりました。
ちなみに、ノルマンディーにある世界遺産「モンサンミッシェル」では、シードルやカルヴァドスが定番のお土産となっています。
2.ブルターニュ地方
ブルターニュ地方もリンゴ栽培に適した気候風土で、シードルの生産が盛んです。ブルターニュ発祥であるガレット(そば粉のクレープ)とのペアリングが伝統的な食文化となっています。独特の酸味と風味が特徴です。
ブルターニュでシードルの生産が始まったのは14世紀頃、盛んになったのは16世紀頃と言われています。18世紀には地元のガレットとの相性が評価され、広く普及しました。近年ではオーガニックシードルの生産が増加しています。
3.バスク地方
バスク地方のシードルは、バスク語で「サガルドア(Sagardoa)」と呼ばれ、他の地域とは異なり、伝統的な木樽で熟成する製造法による独特のフルーティーな味わいが特徴です。バスク地方では、直接樽から注がれるサガルドアを地元のピンチョス(小皿料理)と一緒に楽しむのが一般的です。
文献には13世紀頃からシードル製造の記録が残っていて、特に船員たちの間でビタミンCの供給源として重宝されていたそうです。現在では、伝統的な製法を守りつつも、革新的なアプローチを取り入れたシードルが生産されています。シードル製造は伝統的な農業活動の一部として、地域の文化や伝統に深く根付いています。
バスク地方には、新酒のシーズンにシードルハウスで行われる「チョッチン(txotx)」と呼ばれる風習があります。シードルの新酒を樽から直接グラスに注ぎ、”チョッチン!”という掛け声とともに試飲を楽しむというもの。チョッチンのシーズンは1月から4月まで続き、伝統的な料理とともに新酒を味わい、ワイワイと交流を楽しみます。毎年延べ約100万人もの人々が集まり、チョッチンで賑わうそうです。
シードルとのペアリングが人気の料理
地産地消の概念が根付いているフランスでは、シードルも地元の伝統料理とのペアリングが主流です。主要産地であるノルマンディーやブルターニュは気候条件や土壌がブドウ栽培にあまり適していないこともあり、特にノルマンディーでは、ワインよりもシードルを日常的なお酒として楽しんでいる人も多いとか。シードルは基本的に冷やして、アペロや食中酒として飲むほか、伝統的な行事などではスイーツと合わせて飲まれることもあります。ぜひペアリングの参考にしてみてください。
ガレット
ブルターニュ地方が発祥のガレット(塩味のクレープ)は、シードルとの相性が抜群です。ガレットにはさまざまな具材が使われ、辛口や中甘口のシードルがよく合います。
チーズ
ノルマンディーはチーズの名所ということもあり、カマンベールやリブロッシュなどのチーズとシードルの相性が良いとされています。シードルの爽やかな酸味が、カマンベールチーズの濃厚さを引き立て、バランスの良い味わいになります。
シーフード
ノルマンディー、ブルターニュ、バスクといった主要産地が海の幸に恵まれていることもあり、牡蠣やムール貝、シュリンプといったシーフードとの組み合わせも定番的です。シーフードの自然な甘みにシードルの爽やかな酸味と果実味がマッチします。
豚肉料理
ノルマンディーやブルターニュでは伝統料理として豚肉料理が多く、豚肉や鶏肉をカルヴァドスやシードルで調理する料理もあるので、もちろんシードルとの相性は抜群です。
リンゴを使った料理やスイーツ
同じ原材料であるリンゴをたっぷり使ったタルト(タルト・オー・ポムやタルト・タタン)との組み合わせも自然なペアリングです。ブルターニュ地方では、伝統菓子のクイニーアマンやクレープと一緒に飲むこともあります。ジュース感覚でアルコール度数の低い甘口のシードルを合わせることが多いようです。
近年のシードルトレンド
長い歴史を持ち、産地地域の誇りともなっているフランスのシードルですが、時代の変化に合わせて、新しい動きも生まれています。フランスのシードル業界のトレンドに注目してみましょう。
・オーガニックシードル
健康志向や環境意識の高まりから、有機栽培によるシードル生産が増加しています。有機認証を取得したり、より自然な農法で栽培されたリンゴを使用したりすることで品質を向上させています。
・クラフトシードル
小規模な醸造所による独自の製法や地元産のリンゴを使ったクラフトシードルが注目されています。手作業や伝統的な方法によって発酵や熟成の過程を醸造者独自のセンスで細かく管理。より複雑で深みのある味わいや個性の多様性が魅力です。
・ノンアルコールシードル
健康志向や持続可能なライフスタイル意識の高まり、また飲酒運転の厳罰化もあって、アペロを愛するフランスでもノンアル市場はジワジワと着実に拡大中。日本同様、特に若い世代で広がっていて、ワインやビール同様、シードルでも本格志向のノンアル商品が増えています。
ア·ターブル!のシードル
ア·ターブル!では、ブルターニュとノルマンディーのシードル生産者約400名が加盟する協同組合「Val de Rance(ヴァル·ド·ランス)」のシードルを取り扱っています。「シードル生産者による生産者のための組合」を掲げるVal de Ranceは、フランスを代表するシードルメーカーの一つとして、高品質なオーガニックシードルやノンアルシードルなどのトレンドも牽引しています。
本場のこだわりが詰まった本格的なシードルを、ア·ターブル!の料理と一緒にぜひ一度味わってみてくださいね!
・Val de Rance ペルル ド シードル ブリュット〈辛口〉
・Val de Rance クリュ ブルトン ブリュット〈辛口〉
・Val de Rance ペルル ド シードル フリュイテ〈甘口〉
・Val de Rance スパークリング ヴァル ド ランス ポムビオ
<参考>