
年末年始やお盆、連休など、会食の機会が増えるシーズンに耳にすることの多い「オードブル」。日本では、唐揚げやローストビーフ、フライドポテトなどの盛り合わせをイメージする人が多いかもしれません。日本語では「前菜」と訳されますが、同じく前菜とされるものに「アントレ」や「アミューズ」と呼ばれるものもあります。その違いはご存じですか? レストランでメニューを見たときに、それぞれの意味や違いがわかると安心(?)ですよね。今回は「オードブル」「アントレ」「アミューズ」の違いをご紹介します。
シェフにとって、オードブルは「仕事の外」!?

オードブルとは、フランス料理で、主に食事の前に提供される小皿料理のことを指します。もとになっているのは、フランス語の「hors d’œuvre(オル ドゥーヴル)」です。「hors de~(オルド:~の外)」+「œuvre(ウーヴル:仕事、作品)」から成る言葉で、直訳すると「仕事(作品)の外」という意味になります。
この言葉はもともと建築用語として使われていたもので、16世紀末ごろから建築物の主要な構造物から切り離された部分を指すようになりました。フランス版広辞苑ともいえる「Larousse(ラルース)」では、「作品から切り離され、デザインに影響を与えることなく取り外すことができる非一体的な部分」と定義されています。
この表現は徐々に建築以外にも広がり、本をはじめとするさまざまな芸術作品において、「主題の本質的な部分ではなく後の段階で付け加えられ、その部分がなくても全体が損なわれることのないもの」を比喩的に指すものになりました。そして、料理がアートとの結びつきを深めていく中で、料理の世界でも使われるようになったのです。
「仕事(作品)の外」を料理の世界で考えると、シェフにとって「仕事/作品」であるコース料理の「外」にあるもの、を指すことになります。本格的な「仕事/作品」に入る前に、お客さんを待たせて食欲をそそるためのもの。そんなちょっとした小皿料理が17世紀末以降、食事の最初に提供され、「オードブル」と呼ばれるようになりました。
「アントレ」からいよいよ“仕事”がスタート!

「オードブル」の後、メイン料理の前に提供されるのが「アントレ(entrée)」です。これはフランス語で直訳すると「入り口」「玄関」を意味し、メインディッシュへの導入となる一皿です。主菜の前に提供されることから、アントレも「前菜」と訳されることがあります。
ただ、仕事の「外」にあるとされるオードブルとは違い、アントレはコースに含まれるもので、仕事の「中」にあります。オードブルよりもやや量が多く、より複雑な調理法によってつくられる一皿料理です。建築物でいえば、オードブルが小さな前庭で彩られたアプローチとすれば、アントレは「建物の顔」とされる玄関、といったイメージでしょうか。フランス料理のコースディナーにおいて、メインへの期待をかきたてるアントレの存在は重要なものとされていました。
しかし、宮廷文化の隆盛とともに発展し、太陽王ルイ14世の時代を頂点に、洗練され様式美を極めたフランス料理は、フランス革命後に社会が民主主義と労働者の時代への変化と共に簡略化されていきました。現在では特にカジュアルなレストランやビストロ、またランチコースにはアントレがないことも一般的です。
ちなみに、少し注意したいのが、北米英語圏では、「アントレ」という言葉が「メインディッシュ」を意味するということです。フランスからイギリスに食文化が伝播する過程でフランス料理の複雑な多コース文化はシンプルになっていき、簡素化の流れはアメリカではより顕著でした。ただ、20世紀初頭のアメリカではフランス文化への憧れが強かったことから(一昔前の日本のように)、アントレ自体は省略されていく中でもフランス語らしいおしゃれな響きがする「アントレ」という言葉だけが残り、いつしかメインディッシュを指すようになった、と一説にはいわれています。
「前菜を頼んだのに、メインディッシュが出てきた!」なんてことにならないよう、北米ではご注意を!
なお、同じ英語圏でも、イギリスやオーストラリア、またフランス語が公用語となっているカナダのケベック州などでは、アントレは英語で「始まり」を意味する「スターター(starter)」と表現され、メインディッシュを意味することにはなりません。
もともと無料サービス品だった「アミューズ」

同じく「前菜」と呼ばれるものに「アミューズ」もあります。これはフランス語の「amuse-gueule(アミューズ・グール)」あるいは「amuse-bouche(アミューズ・ブーシュ)」を略したものです。「gueule」は「獣の口」、「bouche」は「人間の口」と、両方とも「口」を意味し、直訳すると「口のお楽しみ」「口を楽しませるもの」といった表現になります。
アミューズは、もともとおもてなしの気持ちとして提供される無料のサービス品で、メニューにも記載はありませんでした。注文していないのに出てくる日本の「お通し」に似ていますね。
メニューに記載のないサービス品で、オードブル以上に、細かく様式化されたフランス料理の枠組みの「外」にある存在。最初は豆皿に乗ったナッツやオリーブ程度だったものが、徐々にお店の差別化の要因となっていきました。創作意欲にあふれる料理人は、アミューズを自由な表現の場、あるいは実験の場として、独自の工夫を凝らしたり、新しい試みにチャレンジしたりするように。コース仕立てのフランス料理が簡略化していく流れに反比例するように、アミューズは独自の役割を持つようになっていったのです。
現在、星付きフレンチレストランなどではアミューズの存在は重要で欠かせないものとなっています。お店の独創性や感性を表現する小さな芸術品として、盛り付けにも手間暇をかけて準備されますが、現在でも無料とされるところがほとんどです(サービス料にはしっかり含まれていることでしょう!)。
見た目にも美しい華やかなアミューズは、ブッフェ形式の立食パーティーやカクテルイベントなどで提供されることも定番となりました。気軽に手で食べられる一口、二口サイズのフィンガーフード、ショットグラスやレンゲ型のアミューズスプーンなどで提供されることが多く、フランス料理に限らず、幅広い料理ジャンル、さまざまなシーンでテーブルを彩っています。
オードブル、アントレ、アミューズの違いとは?

オードブル、アントレ、アミューズはそれぞれ異なる背景や役割を持っていることをご紹介しました。主菜の前に提供されることからどれも「前菜」と訳されますが、コースの中で提供される順番は「アミューズ→オードブル→アントレ」となり、メイン料理に向かって料理の質量が増していくイメージとなっています。
ただし、料理の内容として、提供される順番に伴う傾向はありますが、人によっても解釈はさまざまで、明確な定義があるわけではありません。
最初に提供される無料のおもてなしと位置付けられるアミューズは、カナッペやピンチョスのような一口サイズであることは特徴的ですが、オードブルとアントレにおいて、内容的に明確な区別がはっきりしていません。伝統的にオードブルは冷製とされていましたが、現在は温製のものも多くあります。つまり、本場においても区別はあいまいなものとなっているのです。
今は伝統的な区分けよりも、シェフの創造性や料理のコンセプトが重視されることから、その一品をどのように呼ぶのかによって、コースの流れやシェフの意図を汲み取る楽しみがある。これもフランス料理の在り方の進化の一つと言えそうです。
ア·ターブル!のおすすめ

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(参考)