愛と歴史が息づく「恋人たちの日」フランスのバレンタイン

バレンタイン オードブル アペロ |ア・ターブル!

立春を過ぎ、かすかな春の足音とともにやってくるのが2月14日のバレンタインデー。日本では「女性が男性にチョコを贈り、愛を告白する日」として定着しましたが、フランスではどのようなものなのでしょうか。今回は、その起源から、フランス人の過ごし方や人気ギフトまで、フランス流の“愛の祝祭”をひも解いていきます。

フランスのバレンタインデーは「恋人たちの日」

Saint-Valentin

立春を過ぎ、かすかな春の足音とともにやってくる2月14日、バレンタインデー。日本では、「女性から男性へ、チョコレートを贈って愛を告白する日」として定着しました。その後、恋愛の枠を超えた「義理チョコ」や「友チョコ」が広まり、近年では女性が「自分へのご褒美」として高級チョコを奮発する機会にもなりつつあります。いずれにしても、女性が中心となって他人や自分にチョコレートを贈る、“楽しいチョコレートイベント”の様相を呈しています。

一方で、フランスのバレンタイン(La Saint-Valentin)はどのような日でしょうか? フランスでは、日本とは異なるカップル文化があり、日本のように、恋人同士になるきっかけとして“告白”の慣習はありません。自然に関係を深め、いつの間にか恋人同士になっているケースが多いといわれます。

そんなフランスのバレンタインは、すでにカップルになっている二人のためのもの。日本とは逆で、主に男性から女性へ贈りものをし、お互いへの愛情を確認し合う記念日となっています。

兵士たちの結婚をこっそり執り行ったヴァランタン司祭

聖ヴァランタン
画像:ジャコポ・バッサーノ「聖バレンタインが聖ルチッラに洗礼を施す」(パブリックドメイン)

フランスのバレンタインは、古代ローマとキリスト教の歴史が重なり合った文化的記憶がベースになっています。そもそも、2月14日という日付は、キリスト教会で殉教者として記憶された聖ヴァランタン(Saint Valentin)の祝日が起源といわれています。

伝承によると、聖ヴァランタンは、3世紀頃のローマ帝国時代に実在したキリスト教のウァレンティヌス(Valentinus)司祭(フランス語表記Valentinに従い、以下ヴァランタン)といわれています。殉教した同じ名前の司祭は少なくとも3人いたとされますが、ローマ皇帝クラウディウス2世の時代に活躍した司祭の物語として伝えられています。

クラウディウス2世は、愛する者がいることで、戦場へ向かう士気が下がることを恐れ、若い兵士に結婚することを禁じていました。ヴァランタン司祭はこの命令に背き、密かに若いカップルを結婚させていたことで投獄され、最終的に処刑されてしまいます。それが2月14日のことと言われています。

当時の人々は、2月中旬を鳥たちがつがいを選ぶ時期としても認識していたことから、中世になると「恋が芽吹く日」「想いを交わす日」として、ヨーロッパ全域でこの“愛の季節”的な信念が広まったといわれています。

そして、宮廷文化の中で、恋人同士が詩や言葉を贈り合う習慣が生まれます。そんなフランス独特の“言葉による愛の表現文化”が重なり、バレンタインは「恋人たちが心の結びつきを確認する日」として定着していきました。

フランスのバレンタインに欠かせないものとは?

バレンタイン ハート チョコレート

「バレンタインデー」と「チョコレート」が結びつくようになったのは、比較的最近の19世紀のこと。英国のチョコレート業者が1868年に、バレンタイン用にハート形の箱入りチョコレートを販売したことがその原点になったと考えられています。20世紀にチョコレートが大量生産されるようになったことで、アメリカやイギリスで「愛のしるしとしてチョコレートを贈り合う」という習慣が定番化。これが世界的に広まり、チョコレートがバレンタインの象徴的ギフトになっていきました。

フランスでも、最も定番の贈り物はやはりチョコレート。2月になると、ショコラトリにはハート形のチョコレートや特別なスイーツが並びます。次に多いのが花。特に赤いバラが人気ですが、近年は相手の好みに合わせたブーケを選ぶ人が増えているようです。日本に比べると、街角の生花店やショコラトリの熱量も決して騒がしいものではなく、どこか落ち着きのある大人びた空気が漂っています。

フランスのカップルの典型的なバレンタインの過ごし方は、「いつもより、少し丁寧な夜」。レストランでのディナー、もしくは自宅での食事で、いつもより少しだけいいワインを選び、好きな料理を作り、デザートで締めくくる。その延長線上にチョコレートやスイーツがあり、派手な演出や義務感はなし。長年連れ添ったカップルであれば、カード一枚と花だけ、ということも珍しくありません。

彼らが大切にしているのは、「相手の好みを理解していること」や「相手への想いを言葉で表現すること」。そして、欠かせないものは、“言葉”。贈り物が一輪の花だけとしても、そこには相手へ贈る自分なりの言葉が必ず添えられます。殉教したヴァランタン司教が処刑前夜に、親しくなった看守の娘に「あなたのヴァランタンより(From your Valentine)」としたためた手紙を渡したというエピソードがバレンタインカードの起源ともいわれています。

フランス文学史においても、「愛と手紙」の文化は欠かせません。その伝説がフランスの恋愛文化の中で生き続けてきたことに、フランスのバレンタインの本質があるのかもしれませんね。

贈るのは、男性から女性へ。「ガランテリー」という美意識

ランブイエ館のサロン
画像:フランソワ=イポリット・ドゥボン「ランブイエ館のサロン」, CC0 1.0

日本とは大きく異なる点として、フランスをはじめとする欧米諸国では、バレンタインに「男性から女性へ花や贈り物を贈る」という慣習があります。女性の中には、映画のワンシーンのような「紳士的なふるまい」に憧れる人も多いのではないでしょうか。女性に先にドアを開ける、いすを引く、花や贈り物を渡す。こうした“レディーファースト”の所作は、単なるマナーではなく、フランスで17世紀に形づくられた ガランテリー(galanterie) という文化が息づいています。

フランス国立図書館の解説によれば、ガランテリーとは「他者への注意深い振る舞い」を通して人間関係を美しく保つための社交の美学。礼儀作法というより、相手の尊厳や快適さを大切にする価値観そのものです。この考え方が、後のヨーロッパにおける“紳士的な男性像”の土台になりました。

この文化が育った背景には、17世紀フランスのサロン文化があります。当時、公的な政治や学問の場は男性中心の世界でしたが、文学や思想を語り合う私的なサロンでは、女性が主催者として空間を取り仕切っていました。サロンは身分よりも会話の才や知性が重んじられる、自由な交流の場。その存在感が増すにつれ、男性の作家や知識人にとって、サロンでの評価は社会的な成功につながるものになりました。だからこそ男性は、その空間を成立させている女性主催者に敬意を示し、洗練された振る舞いを意識しました。女性を優先する振る舞いは、個人への奉仕というよりは、「この知的な場を尊重する」というメッセージでもあったのです。

ドアを開ける、いすを引くといった所作は、そのガランテリーを最もわかりやすく体現したジェスチャー。これらは実用的な手助けであると同時に、「あなたを大切に扱っています」という象徴的なサインでもありました。力関係ではなく、洗練された配慮によって関係を築くことを理想とするこの価値観は、ヨーロッパ各地に広がりました。英語の gallantry などの言葉にも、その影響が見て取れます。いわゆるレディーファースト文化は、女性を弱い存在とみなす発想というより、他者への敬意を行動で示す社交のスタイルだったのです。

フランスをはじめ多くの国で、伝統的に男性が女性へ花や贈り物を贈るというバレンタイン文化も、この延長線上にあります。ガランテリーの精神に照らせば、「あなたを尊重しています」というメッセージを形にしたものと言えるでしょう。現代では、時に物議を醸すこともある“紳士的なふるまい”ですが、上下の関係ではなく、お互いの関係を丁寧に扱う一つの知恵として、柔軟に受け止めてもいいかもしれませんね。

絆を深めるバレンタインに、アペロのひとときを

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