フランスでは、キリスト教に関連した習慣や儀礼的イベントがたくさんあり、食文化とも密接にかかわりあっています。春先の一大イベント「謝肉祭」では、最終日に「ベニエ」と呼ばれるお菓子を食べるのがお決まり。今回はフランス人が大好きなベニエをご紹介します。
盛大に楽しむのが謝肉祭=カーニバル
「謝肉祭」は、フランス語で「Carnaval(カルナヴァル)」、英語では「Carnival(カーニバル)」と言います。「リオのカーニバル」に代表されるような賑やかなお祭りをイメージする「カーニバル」という言葉は、もともと「謝肉祭」を指す言葉なのです。
「謝肉祭」はカトリックにおける一大イベントの一つ。仮装のパレードや、お菓子を投げる行事などが催されます。フランスの子どもたちはカーニバルの日は仮装をして学校に行き、高校でもコスチュームを着て通学することができるお楽しみの日。各地でカーニバルのイベントが催されますが、フランスで最も有名なカーニバルは、南仏コート・ダジュールのリゾート都市、ニースのカーニバル。毎年100万人以上が訪れる大規模なもので、イタリアのヴェネツィア、ヴェアレッジョに並ぶ「ヨーロッパ三大カーニバル」の一つと言われています。
ニースのカーニバルは毎年2月に2週間かけて行われます。毎年のテーマに応じて趣向を凝らした巨大オブジェを載せた山車が、カーニバル一色となったニースの街を練り歩きます。また、ニースのカーニバルといえば、色とりどりに飾り付けられた花車が美しさを競う「花合戦」も大きな醍醐味。沿道の観客に向けて大量の花束がばらまかれ、人々はお花を持って帰ります。
ベニエは「マルディ・グラ」に食べるおやつ
謝肉祭は「四旬節」までの1週間続きます。四旬節は、イエス・キリストの復活を記念する「復活祭」前日までの40日間の断食期間のことで、イエスが荒野で断食と祈りの時期を過ごしたことにちなんでいます。四旬節が始まるのは水曜日と決まっていて、その日は「Mercredi des cendres(メルクルディ・ デ・サンドル:灰の水曜日)」と呼ばれます。人生の楽しみに食が占める割合が高い、なんともフランスらしい表現ですね。
そして四旬節に入る前日、つまり謝肉祭の最終日は「Mardi Gras(マルディ・グラ:肥沃な火曜日)」と呼ばれます。ご馳走が続いた謝肉祭の1週間の締めくくりとして、マルディ・グラには脂肪分のあるお菓子、「ベニエ」やゴーフル、クレープなどを食べてお祝いをするのがならわし。卵、バターなど脂肪分、砂糖の多い食べ物を控えることになっている断食期間に入る前に、それらの食材を使い切るためとも、節制期間に入る前にしっかり栄養を取るためとも言われています。
この習慣が始まったのは古代ローマ時代と言われていますが、現在では四旬節に入って実際に節制を行う人は少数派で、謝肉祭の期間にご馳走を食べ、マルディ・グラにベニエを食べるという習慣だけが残っているようです。
ベニエも地方色豊か!
マルディ・グラに食べる「ベニエ(beignets)」とは、ドーナツのような揚げ菓子の総称のこと。手で摘まめる程度の小ぶりなサイズで、ころんとした丸や四角形に成形した生地を揚げ、粉砂糖をたっぷりまぶしたものが一般的。中にジャムやチョコなどのフィリングを入れる場合もあります。ただ、歴史の古い伝統的なお菓子なので、フランスの各地域にマルディ・グラに食べる伝統の揚げ菓子があります。地域によって呼び名もレシピも異なり、とても多彩です。
リヨンのサクサクした「ビーニュ・リヨネーズ(bugnes lyonnaises)」、ニースの「ガンズ(genses)、ボルドーなどフランス南西部の「メルヴェイユ(Merveilles)」、南仏のプロヴァンス地方のおせんべいのような「オレイエット(Oreillettes)」などが広く知られるところですが、各地域に根付いている揚げ菓子は数え切れないほど。フランスは、料理もスイーツも、本当に地域色が豊かなのです!
日本ではあまり知られていませんが、フランスではとてもポピュラーな「ベニエ」。シンプルで素朴な味わいは、多くの人にとってママンの味でもあるようです。さまざまなレシピがあるので、探して手作りしてみるのも楽しいかもしれません。
(参考)