フランス人が熱烈に愛する魅惑の香り「トンカ豆」とは?

皆さんは「トンカ豆」を知っていますか? 初めて聞いた、という方も多いのではないでしょうか。日本ではなじみがない人が多いと思いますが、実はフランスではお酒や料理、お菓子から香水にまで使われているかなりメジャーな存在。今回は、その独特の香りで人々を虜にしているトンカ豆についてご紹介します。

フランス人が熱烈に愛する「トンカ豆」の意外な正体

日本ではあまり知られていない「トンカ豆」(fève Tonka, fève de Tonka)は、名前からは想像できない、独特の甘い香りが特徴のスパイスです。

トンカ豆は、形は黒くて細長く、表面にはシワがあり、長さは3cmほどの大きさ。「豆」と呼ばれていますが、実は豆ではなく、実は果実の中から取り出した「種」がその正体です。

ことさらフランス人には、このトンカ豆の香りが好まれ、その情熱は“トンカ熱(fièvre tonka)”(フランス語で「豆」を意味する「フェーヴ(fève)」に、音が似ている「熱」を意味する「フィエーヴル(fièvre)」を引っ掛けた言葉)と呼ばれるほど。

そんなトンカ豆の香りは、フランスだけではなく、実は世界中で人気です。デザート、カクテルなどの飲み物、さらには香水にも使われています。フランスでは、トンカ豆入りのアイスクリームやカスタードがポピュラーで、イギリスでは、トンカ豆をリキュールに漬け込んで香り付けをしたり、カクテルのシロップに混ぜたりします。

香水の世界でもトンカ豆の香りは高く評価されています。世界最高峰の香水ブランドとして知られるフランス「ゲラン」では、メゾンを象徴する6つの重要な天然素材の一つに、「まるで素材そのものがフレグランス」と称するトンカ豆を挙げています。トンカ豆の香りを主役にしたゲランの香水としては、その名を冠した「トンカ アンペリアル」や伝説的な人気を誇る傑作「シャリマー」がよく知られています。

世界中で絶大な人気を誇るイギリスのフレグランスブランド「ジョー·マローン」でも、トンカ豆を使った「ミルラ&トンカ」の香りは、ディフーザーやアロマキャンドル、コロンやボディクリームなどのアイテムをシリーズ展開しています。

トンカ豆は、香りの世界で引っ張りだこの人気者なのです。

魅惑の甘い香りのヒミツ

複雑で甘く妖艶、そして個性的なトンカ豆の香り。ソフトで甘く、アーモンド、キャラメル、ピスタチオ、プラリネを思わせ、それでいて、ウッディで、タバコや乾燥した干し草、ハチミツのニュアンスもあって……と言われても、なかなか想像できませんね。

トンカ豆の香りの主成分を占めるのは「クマリン」と言われています。クマリンは、シナモン、ナツメグ、アーモンド、ベルガモット、ハチミツ、ラベンダー、セロリにも含まれている芳香物質です。科学的にはバニラの芳香成分であるバニリンとも構造が似ていて、香水やせっけんの香料のほか、バニラの代用品として使われることも多いですが、バニラそのものよりも複雑で、エキゾチックな雰囲気を持つのがクマリンの特徴です。

クマリンは桜の葉や杏仁にも含まれています。「桜餅」や「杏仁豆腐」の香り、と言われれば、日本人もイメージしやすく、グッと親しみが感じられますね。

トンカ豆やシナモンに多く含まれるクマリンはシェリー酒にも多く含まれていて、シェリー樽熟成の甘めのウイスキーにはトンカ豆やシナモンの風味がよく合います。また、トンカ豆のエッセンシャルオイルはアロマセラピーにも使われ、高い鎮静作用があることから、不安や緊張、睡眠障害といった症状の緩和に用いられています。

トンカ豆ができるまで

トンカ豆の原産地は、南米のベネズエラやブラジルです。最近では西アフリカのナイジェリアでの栽培も盛んです。高さ25~30メートルほどにもなる「クマル」あるいは「チーク」と呼ばれる大きな広葉樹の、マンゴーのような大きな実から採取します。

その製法は実に手間暇がかかります! 冬になって熟したクマルの果実が、自然に地面に落ちるのを待ちます。その落ちた実をそのままにして、翌年の春(5~6月頃)にようやく収穫。果実から種を取り出すと、日陰で約1年間乾燥させます。

その後、硬い殻を石やハンマーで割り、さらに種の中から、褐色の皮と脂肪分の多い象牙色の果肉を持つ種(トンカ豆)を取り出します。それを天日で干し、65度のアルコール(通常はラム酒)に24時間漬けた後、さらに5日間かけて風乾させます。すると、種の表面に白い霜のような香り成分のクマリンの結晶が現れます。「トンカ豆」の完成です。

実に手間暇のかかる作業を経て、魅惑の香りが生まれるのですね。

幸運のお守りだった!? 意外なトンカ豆の歴史

原産地の一つ、ベネズエラでは、1940年代までトンカ豆は貿易取引の通貨として使われていました。香りを楽しむためというよりも、せきや吐き気、喘息などの症状を緩和するために食べられることがあったようです。

そして、アマゾンのインディオの間では、トンカ豆は幸運のお守りとされてきました。フランス領ギアナでは、「願い事をするときは左手にトンカ豆を、右手に死んだヘビを持たなければならない。そして、願いを叶えるためには、トンカ豆を小川に投げ入れ、ヘビをトンカ豆の木であるクマルの木の一番高い枝に吊るさなければならない」という言い伝えがあるといいます。不思議なパワーを持つ存在と信じられてきたことがわかりますね。

ワードローブに香りをつけることもトンカ豆の最初の用途の一つだったようで、かつてはトンカ豆を砕いて粉末にし、リネン用の小袋に入れて売られていました。また、その甘く滑らかで温かみのある香りのために、タバコやスナッフ(鼻から吸う嗅ぎタバコ)の香りづけにも使われていました。

調香師たちがトンカ豆の香りに関心を持ち始めたのは、20世紀初頭のこと。真っ先にトンカ豆を前面に押し出したのは前述したゲランでした。1921年に発表された有名なフレグランス「ゲルリナード」に配合されて以降、トンカ豆は調香師にとって非常に貴重な素材となっていきました。

トンカ豆が料理に使われるようになったのは、1940年代ころから。最初にドイツ料理で火がつき、クリスマスビスケットの香り付けに使われるようになったそうです。ナツメグのようにすりおろすことができるこの豆は、今や世界のシェフやパティシエ、そしてバーテンダーたちにとって重要なスパイスとなりつつあります。

いろいろ使えるトンカ豆の楽しみ方

風味付けのスパイスの歴史はまだまだ浅いトンカ豆ですが、一般的に、ミルクやクリーム、カスタードなどの風味付けに使われるほか、キャラメルやプラリネとの相性も良く、ことさらカカオとの相性が抜群です。チョコレートのムースやトリュフ、タルトなどのチョコレート菓子によく使われています。

また、ホットチョコレートやハーブティーなど、香りが立ち上る温かい飲み物に加えるのも人気です。ココナッツや、ラズベリーなどのベリー系、アプリコットをはじめとするフルーツ全般ともよく合うため、自家製ジャムやコンポートなどにも使えます。

ドイツではシュトーレンにも使われています。

トンカ豆の強い風味を最大限に活用するためには、仕上げに少量をすりおろすか、すりつぶしして使うことが主流です。

スイーツはもちろん、料理にもその風味は活用されています。

サツマイモ、カボチャ、ロブスターと相性が良いため、マッシュポテト、ポテトグラタン、野菜スープ、淡白な白身魚や貝類への風味付けに活用されています。ホタテのカルパッチョに少量すりおろすのも人気です。ベシャメルソースに、ナツメグの代わりにトンカ豆を使うのもおすすめです。

トンカ豆やシナモンに多く含まれるクマリンはシェリー酒にも多く含まれており、ウイスキーやコニャックの香りと重なるため、カクテルの材料としても楽しめます。

なお、主成分の「クマリン」は一度に大量摂取すると肝臓に有害と言われていますが、風味付けとして少量用いる分には全く問題がないので、ご安心ください。

アターブルのトンカ豆スイーツ

ここまで読んで、「トンカ豆の香りを確かめてみたい!」と思った方も多いのではないでしょうか(笑)。アターブルの自家製チョコレートケーキ「ムース·オ·ショコラ·トンカ」は、商品名からもわかるように、トンカ豆の香りを存分に堪能できる、こってり濃厚なチョコレートムースです。トンカ豆の魅惑的な香りをまとったチョコレートの層が織りなすなめらかなテクスチャーと、クランブル生地のザクザクした歯ざわりのコントラストが絶妙です。甘すぎず、かつビターすぎないまろやかな味わいは、デザートやティータイムはもちろん、お酒のお供にもおすすめです。

アターブルの風味濃厚な「ムース·オ·ショコラ·トンカ」で、ぜひ「トンカ豆デビュー」してみてくださいね!

<参考>