個性豊かなフランス郷土料理(前編:南フランス)

「フランス料理」と一口にいっても、地方によって実に個性豊か。その多様性が大きな魅力です。今回は2回に分けてフランスの各地方の代表的な料理をご紹介。前編では南フランスの料理をピックアップします。

世界初「食の世界遺産」に認定されたフランス料理

フランス料理は、中国料理、トルコ料理と並び、「世界三大料理」の一つとされ、2010年にはメキシコ料理や地中海料理とともに、ユネスコの「食の世界遺産(無形文化遺産)」として初めて「フランスのガストロノミー(美食術)」が登録されました。無形文化遺産としてのガストロノミーは、特定の食事のことではなく、「出産、結婚、誕生日、成功、再会など、個人や集団の生活の最も大切な時を祝うための社会的慣習」としての食文化全体を指したもの。人々が共に食事をすること、土地の恵みとの調和、料理とワインの組み合わせ、テーブルセッティグ、マナーなどを含めたガストロノミー文化は、フランス人のアイデンティティーの一部となっています。

中でも「土地の恵み」を大切にするフランス料理の魅力は、個性豊かな各地の郷土料理の存在なくして語ることはできません。さまざまな国と接しているフランス各地の郷土料理は、多様な気候風土だけではなく、地理によって全く異なる歴史的、文化的背景と密接に結びついて発展してきました。人々が誇りを持ち、大切にしている各地の伝統食を見ていきましょう。

フランス南部の5つの地方の伝統料理

フランスには、現在18の地域圏があります。ヨーロッパ本土にある13の地域圏から、今回はフランス南部の5つの地域圏と、その郷土料理をご紹介します。

オーヴェルニュ=ローヌ=アルプ(Auvergne-Rhône-Alpes)

フランスの南東部に位置し、東部のアルプス山脈でスイス、イタリアの国境に接する地方。ローヌ川とソーヌ川という二つの大河の合流点に位置する首府リヨンは、古代ローマ時代から繁栄し、食材の名産地の囲まれた「美食の街」として名高いフランス第二の都市です。リヨンでは、19世紀末からブルジョワ家庭のキッチンで働いていた「メール(mere:母、おばさん)」と呼ばれた女性料理人が経営する素朴な家庭料理の店が繁盛したことでリヨン料理の名声を高め、庶民の食堂で出されてきた豚肉料理が伝統的フランス料理として認知されるようになりました。料理に「リヨン風」と付く料理の多くは、名産のタマネギがベースになっています。

●リヨン風オニオングラタンスープ(gratinée lyonnaise)

●若鶏のビネガー風味(poulet au vinaigre)

●サヴォワ風チーズフォンデュ(fondue savoyarde)

●キャベツのファルシ(chou farci)

●ビューニュ(bugnes)マルディ·グラ(謝肉祭最終日)に食べる揚げ菓子

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ヌーヴェル=アキテーヌ(Nouvelle-Aquitaine)

(アキテーヌ=リムーザン=ポワトゥー=シャラント)

フランス南西部にあり、西は大西洋、東は中央山塊、南はスペインとの国境になるピレネー山脈に囲まれています。ポワトゥー=シャラント地方とアキテーヌ地方は、冬は温暖、夏は涼しい西岸海洋性気候。内陸部のリムーザン地方は牧草地と森林が広がる高原地帯で、ジビエ料理が名物です。首府は、世界に誇る赤ワインで知られるボルドー。沿岸部は、養殖カキ、ヤツメウナギなどの産地です。トウモロコシの生産高もフランス最大で、これを飼料とする家禽類の飼育が盛ん。スペインにまたがるバスク地方は独自の文化を守っている地域で、料理も独自のものが多くあります。「ボルドー風」と付く料理には、ワイン、牛の骨髄、エシャロットを使うことが多いのが特徴です。

●鴨のコンフィ(confit de canard)

●ヤツメウナギのボルドー風(lamproie à la bordelaise)

●エクラード(éclade)ムール貝の松葉焼

●ボルドー風カヌレ(cannelé boudelais)

●ガトー·バスク(gâteau basque)

オクシタニー(Occitanie)

(ラングドック=ルシヨン=ミディ=ピレネー)

中央山塊以南のフランス南部に位置し、南はピレネー山脈を挟んでスペイン国境を接し、東南は地中海に面する地方。首府はソーセージやフォアグラの名産地のトゥールーズ。平野部、山岳地帯、台地、渓谷、地中海沿岸と、気候も地形も多様です。内陸部の料理は豚や子羊と野菜、フルーツを組み合わせ、強い風味とボリューム感が特徴。海沿いの地域では、ヒメジ、アナゴ、ボラ、養殖のカキやムール貝などの魚介料理が多いです。フランス最南端のルシヨンは温暖な気候で野菜の促成栽培が盛ん。料理にはスペイン·カタルーニャ地方の影響が見られます。「ラングドック風」と付く料理には、トマトやナス、セップ茸がよく使われます。

●カスレ(cassoulet)白インゲン豆と豚肉の煮込み

●セート風ブーリッド(bourride sétoise)アンコウ煮のアイヨリソースがけ

●ニームの干しダラのブランダード(brandade de morue de  Nîmes)牛乳でゆでたタラのペースト

●トゥールーズ風エストゥファ(estouffat toulousain)牛の尻肉の赤ワイン煮に、白インゲン豆とトゥールーズソーセージを添える

●ブラ·ド·ジタン(bras de gitan)クリームを詰めたロールケーキ

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プロヴァンス=アルプ=コート・ダジュール(Provence-Alpes-Côte d’Azur)

地中海に面し、アルプス山脈をはさんでイタリアと国境を接する地域。首府は港町マルセイユ。ニース、カンヌなどの国際都市がある風光明媚なコート·ダジュール(紺碧海岸)はヨーロッパを代表するリゾート地です。温暖な気候で、フランス最大の多彩な野菜とフルーツの名産地であり、地中海の魚介の宝庫。フランス料理に欠かせないアイヨリ、ルイユ、タプナードなどのソースはこの地方のものです。バターではなくオリーブオイル、パスタやピザ生地などを使うなど、隣接するイタリアの影響も色濃く見られます。「プロヴァンス風」と付く料理は、オリーブオイル、トマト、ニンニクを使うことが特徴で、「ニース風」はそこにアンチョビが加わります。

●ラタトゥイユ(ratatouille)

●ブイヤベース(bouillabaise)

●パン·バニャ(pan bagnat)

●ニース風サラダ(salade a nicoise)

●ピストゥー入りスープ(soupe au pistou)バジル、ニンニク、オリーブオイルのペーストにパルメザンチーズを加えた「ピストゥー」の入った野菜スープ

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コルス(コルシカ島)(Corse)

イタリア半島の西部、サルデーニャ島の北部に位置。自然世界遺産に指定された、地中海に浮かぶ美しい島です。首府はナポレオン·ボナパルトの出身地であるアジャクシオ。「コルシカ」はイタリア語での呼称で、フランス語では「コルス(Corse)」。四国の訳分の面積で、大半が山岳地帯。温暖な地中海気候ですが、高い山も多くスキー場が4か所もあるほどで、多様な地形·気候を持つ山海の食材の宝庫。18世紀後半までイタリア領だったためイタリアの影響が色濃い独自の豊かな食文化があります。コルシカといえば栗、ヒツジやヤギの乳から作ったチーズ「ブロッチュ」も有名です。シャルキュトリもイタリア風です。

●ブロッチュチーズのオムレツ(omelette au brocciu)

●子ヤギのロースト(cabri rôti)

●フィアドーネ(フィアドーヌ)(fiadone)ブロッチュとレモンのケーキ

厳密な基準を設けてブランド化されている地場産食材の多いフランス。各地に根付く伝統料理は地域の誇りとして大切に継承され、フランスの豊かな食文化を担っています。A TABLE!では、シェフのマチューの故郷であるラングドック地方の郷土料理を中心に、伝統の味も取りそろえています。ぜひ、シェフこだわりの本場の味をお試しください!

(参考)
「フランス料理ハンドブック」辻調グループ 辻静雄料理教育研究所編著(柴田書店)
「フランス郷土料理」アンドレ・パッション著(柴田書店)