その数、1,000種類以上! チーズ大国フランスのチーズ5選

多彩なチーズ文化が花開くヨーロッパの中でも、種類の豊富さや消費量の多さで世界トップクラスを誇るフランス。各地域が誇る食文化の一つとして、各地に根付く伝統のチーズが今も大切に守られています。今回は1,000とも2,000ともいわれる種類の中から、代表的なチーズ5種をピックアップ。チーズ選びのご参考にしてみてください。

多種多様なご当地チーズが根付くチーズ大国

フランスは、2018年版「Guide des fromages au lait cru(生乳チーズガイド)」の国勢調査によると1,200~2,380種類ものチーズがあると言われるチーズ大国。一人あたりの年間消費量は、ギリシャ、ドイツに次いで世界第3位で、年間20キロ以上を消費しています。街中にはチーズ専門店が多く、スーパーでも多彩な品ぞろえのチーズコーナーがあります。

チーズや、サンドイッチなどの軽食や料理に用いられるのはもちろん、アペロのお供にも欠かせません。コース料理ではメイン料理の後、デザートの前に、コースの中で最も高級なワインとともに楽しむのがチーズです。ホームパーティーでもチーズのセレクトに力を入れるのがフランス人。日常的な食材でありながら、ぜいたくな嗜好品にもなるチーズは、ワインやシャルキュトリ同様、フランスの食卓に欠かせないものです。

人間国宝的称号を与えられる「チーズ熟成士」

フランス語でチーズは「形作る」という意味を持つ「forma」が語源の「フロマージュ(fromage)」、チーズ職人はフロマジェ(fromager)と呼ばれます。チーズ熟成士(fromager affineur/affineuse:フロマジェ·アフィヌール/アフィヌーズ)という熟成に特化した専門職もあります。熟成士のミッションは、チーズのポテンシャルを最大限に引き出すこと。熟成の工程だけではなく、酪農の現場からチーズ製造全般の幅広い知識と、日々状態が変わる「生き物」であるチーズの変化をキャッチする観察眼や繊細な感性が必要とされます。熟成士はそれぞれのチーズに最適の温度、湿度、酸素濃度の管理に目を光らせ、適切なタイミングで必要な手入れをしながらチーズをベストコンディションで熟成していくよう導きます。

同じチーズでも、熟成士によって加工されたものと、そうでないものでは、味の特徴が違ってきます。一つひとつのチーズと向き合い、香り高いアロマと個性を持つ唯一無二のチーズに育て上げる熟成士は、研究者であり、アーティストでもあります。日本の人間国宝に相当するようなM.O.F(Meilleur Ouvrier de France:フランス最優秀職人賞)の称号を持つチーズ熟成士もいるほど、高度な技術と感性に敬意が払われています。

農家の女性の仕事として継承されてきた各地のチーズ

もともとチーズは、栄養が豊富ながら日持ちのしないミルクの保存食として誕生したもの。チーズ作りの歴史は紀元前2500年にまで遡り、メソポタミアで発見された最初の凝乳の型はシュメールの浮き彫りに描かれていたそうです。フランスでは、古代ローマ時代からチーズづくりは行われていましたが、13世紀以降、農場でチーズづくりが本格的に発展しました。収入源を求めていた農家の女性たちが、牛乳の生産の利益を上げようと、フランスで最初のチーズ協同組合を設立。フランスでは、チーズづくりはほとんど女性の仕事で、レシピやノウハウは母から娘へと受け継がれながら徐々に完成していきました。当時は低温管理ができないこともあり、基本的に販売や消費は地元の市場に限られていたことから、各地域のチーズ文化が形作られていきました。

殺菌をしていない生乳は、牛が食むその土地の牧草によって味がダイレクトに変わるため、同じ種類のチーズでも地域が変われば味も違うものになります。近年、フランスでもチーズは衛生面を考慮した殺菌乳を使用して工場生産されるものが増えていますが、その土地で生産された生乳を使用した、地域に伝わる伝統製法による手作りのものも多くあります。厳しく規定された基準をクリアした地域名を冠するチーズは生乳を使用したものが多く、その土地でしか生まれ得ない味として、ワイン同様、地域が誇る財産となっています。

フランス各地に伝わる多種多様な伝統チーズの中から、今回は代表的なフランスチーズを5つをご紹介します。

1.世界三大ブルーチーズの一つ「ロックフォール(Roquefort)」

フランスのAOP(原産地故郷統制)チーズ第1号で、イタリアのゴルゴンゾーラ、イギリスのブルー·スティルトンと並び、世界三大ブルーチーズと称される“ブルーチーズの中のブルーチーズ”。2000年の歴史を誇るチーズで、古代ローマ時代の文献でも高く評価されています。塩味が強く、青カビ特有のピリッとした刺激のある華やかな味わいと羊乳独特のコク、しっとり柔らかでバターのようなくちどけが特徴。熟成3~4か月が食べごろとされています。

生まれ故郷のロックフォールは、スペイン国境に接するミディ=ピレネー地方のアヴェロン県南部にある人口700人足らずの小さな村。古代ローマ時代の将軍ジュリアス·シーザー(カエサル)がガリア(フランス)全土を征服した後、ロックフォールに立ち寄ってチーズを伝えたことが始まりといわれています。

“海賊版”も多いロックフォールですが、「本物」は気温と湿度が絶妙な“天然の熟成庫”であるロックフォール村の洞窟でしか作れません。秋から冬が旬で、レストランでジビエ料理の後にロックフォールを食べるのが季節の楽しみとなっています。この地域の赤ワインと合わせ、ベリーやナッツが詰まったライ麦パンに載せて食べるのが定番的。極甘口の白ワイン、はちみつやジャムを合わせればリッチなデザートにもなります。

2.最大の消費量を誇る「コンテ(Comté)」

中世に生産が始まり、1000年以上の歴史を誇ります。AOPチーズの中で最大の消費量を誇る、フランス人にもっとも愛されているチーズです。香り高く風味豊かで、毎日食べても飽きない複雑な味わいとバランスの良さが特徴。熟成するにつれて甘みに厚みが加わり、風味も変化します。香りはキャラメルやチョコ、栗、ヘーゼルナッツ、パイナップル、コーヒーとさまざま。熟成は最低4か月~18か月、2年や3年ものもありますが、熟成5~6か月のコンテが一般的。1個あたり40キロ、直径60~70センチとかなり大型です。

原産地はフランス東部、スイス国境に接するフランシュ=コンテ地方のジュラ県、ドゥー県、ローヌ=アルプ地方のアン県にまたがるジュラ山脈一帯全域です。山岳地帯の冬場の貴重な保存食で、大型チーズのコンテは家族で冬を越すための貴重な栄養源でした。

コンテの魅力は、季節、熟成期間、つくり手によって、味わいが異なること。放牧された牛の食べる牧草が地域や季節によって変化するので、それに応じて味も変わり、ワインのように「テロワール」を実感できるチーズです。牛は春から夏にかけて広々とした牧草地で放牧され、秋の終わりに牛舎に戻されます。冬の間は伝統的に干し草を食べますが、それらの飼料はその農場内で生産されたものと定められ、発酵飼料は一切禁止されています。製造工程にも厳しい規制があり、土地の特性を大切にされています。

3.“チーズの王様”と称される「ブリ・ド・モー(Brie de Meaux))

ロックフォールと並んで「王のチーズ」「チーズの王様」という異名でも知られる白カビチーズの代表です。一つあたり2.5~3キロ、直径36~37センチと、白カビタイプのチーズとしては破格の大きさ。コク深く洗練された味わいは「チーズでできたお菓子」とも称されます。パリ盆地の東にあるブリ村でつくられ、パリに近いこともあり王侯貴族にまつわる逸話も多数。カール大帝や太陽王·ルイ14世、ルイ16世の大好物だったと言われています。

100年ほど前までは農家お手製のブリが約40種類もあったといわれ、現在もイル=ド=フランスの酪農地帯に伝わる伝統製法が守られ、無殺菌乳の使用が義務付けられています。日本でおなじみのカマンベールチーズはブリの派生形。温めるとなめらかに溶けるので、ソース代わりにさまざまな料理に利用できます。シャンパーニュや辛口の白ワインとよく合います。

4. シェーヴルの代表格「クロタン·ド·シャヴィニョル(Crottin de Chavignol)」

フランスでは豊富にあるヤギのミルクからできたチーズ「シェーヴル(chèvre)」の代表格で、ロワール川中流域にある小さな村シャヴィニョルでつくられています。なめらかな質感で、ほかのシェーヴルに比べると、若いうちから引き締まった食感を楽しめます。熟成期間は10日間~3か月ほど。アペロのお供の定番の一皿「温製シェーヴルのサラダ(Salade de chèvre chaud)」に使われるのがこのチーズ。ココットやグラタンでいただくのもポピュラーです。

略称として、外見が似ているという粘土製ランプ(クロ)や「糞」に由来する「クロタン」ではなく、生産地である「シャヴィニョル」を普及する運動を始めているのだとか。合わせるワインは、ロワール産の辛口の白がベスト。辛口のロゼとの相性もいいでしょう。

5.美食家好みの香り高いウォッシュチーズ「エポワス(Époisses))

ウォッシュチーズの代表格。ブルゴーニュ地方の中心にある小さな村エポワスが故郷です。その起源は15世紀にさかのぼり、早くから美食家たちの注目を集めていました。ナポレオンも好んで食べていたそうで、「美味礼賛」の著者である美食家ブリア·サヴァランが「チーズの王様」と絶賛したと伝えられています。

アルコール度数40%の「マール·ド·ブルゴーニュ」という蒸留酒を少量混ぜた液でウォッシュをかけ、熟成が進むにつれマールの濃度を高めていき、最後はマール100%で洗うという大変ぜいたくな製法です。個性豊かなウォッシュタイプの中でも、エポワスの香りの強さは随一で、“神様のおみ足の香り”とも称されます。通好みの個性的な強い香りに反して、中身はミルクの甘みが感じられるクリーミ―でマイルドな味わいです。ワインはブルゴーニュの赤とのマリアージュがベストですが、ミディアム以上の赤ならたいていはよく合います。

1,000~2,000ともいわれる多種多様なチーズの中から今回は5つのチーズをピックアップしましたが、ほかにも有名なチーズは多数あるので、ぜひ好きな地域のチーズをチェックしてみてくださいね。そして、チーズにはワイン。A TABLE!では、サステナブルな製法でつくられたこだわりのフランスワインを厳選して取りそろえています。「テロワール」を感じながら、熟成が生み出すアートのマリアージュをご堪能ください。

<参考文献>
「フランスチーズ図鑑」磯川まどか著(柴田書店)
「10種でわかる世界のチーズ」村瀬美幸著(日本経済新聞出版社)
「プロフェッショナル·チーズ読本」木村則生著(誠文堂新光社)
「チーズと文明」ポール·キンステッド著 和田佐規子訳(築地書館)