秋冬限定の美味! “チーズ界の真珠”モン=ドールの魅力

チーズにも旬があるということをご存じですか? 日本ではチーズ製造に加熱殺菌をほどこしたミルクを使用することが義務付けられており、年中安定した品質のチーズが作られるためチーズで季節を感じることがありませんが、フランスでは加熱殺菌しない生乳を使用するため、地域性や旬があるチーズがたくさんあります。そんなフランスチーズの中で、秋冬限定の味として登場を心待ちにしているファンが多い「モン=ドール」をご紹介。その魅力に迫ります。

かぐわしい木の香漂う滑らかなウォッシュチーズ

「モン=ドール(Mont d’Or)」は、フランスとスイスの自然の国境ジュラ山脈一帯の山岳地帯で作られる、牛乳を原料としたウォッシュチーズの一種です。「牛飼いのチーズ(fromage des vachers 」とも呼ばれていたため、「ヴァシュラン·デュ·オー=ドゥー(Vacherin du Haut-Doubs)」という名称でも呼称登録されています。スイスで作られているものは加熱殺菌された乳を使い、「ヴァシュラン(Vacherin)」あるいは「ヴァシュラン·モン=ドール(Vacherin Mont-d’Or)」と呼ばれます。

「モン=ドール」はフランス語で「黄金の山」を意味する言葉。スイス国境に近いドゥー県にあり、その地域でもっとも高い1463メートルの標高を誇る山の名前です。その山の名前が「最高峰」の意味で冠されました。モン=ドールは秋の到来を告げる季節の風物詩的存在。その登場を心待ちにしているファンがたくさんいます。

エピセアという針葉樹の樹皮で作った曲げわっぱのような型に入れて熟成させるため、チーズに木の香りが移り、ウォッシュ特有の香りがマイルドになります。ナッツを思わせる香ばしさとコク、ほんのりとした木の香りを楽しめます。光沢のある繊細な質感、とろけるクリーミーな舌触りで、「チーズ界の真珠」という異名もあります。

人気チーズ「コンテ」の後に作る自家用チーズ

ハードチーズの「コンテ」で知られるフランス東部でスイス国境に接するブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏のジュラ県、ドゥー県でつくられています。製造期間は8月15日から翌年3月15日まで、販売期間は9月10日から翌年5月10日まで、と規定によって明確に定められている期間限定の味。もともとは秋冬に作られていましたが、人気の高さや環境の整備により春先まで延びました。また、日本では無殺菌乳でチーズを作ることが義務付けられていますが、フランスでは、伝統の味を守るために殺菌を施さない生乳の使用が義務付けられているチーズがあり、モン=ドールもそのうちの一つです。乳牛の種類もモンベリアルド(Montbéliarde)かシンメンタル·フランセーズ(Simmental française)の2種に定められています。

モン·ドールは、フランスのA.O.P.(原産地保護呼称)チーズの中で最大の消費量を誇る「コンテ」の後に作られます。標高700メートルの牧場と16のアトリエがあり、伝統的に夏のミルクでコンテが作られ、秋になって牛の群れを山の放牧地から牧場に連れ帰ってからモン·ドールを作ります。コンテは山岳地帯で家族が一冬越すための貴重な保存食だったため、1個40キロにもなる大型サイズ。大量のミルクが必要で、1軒の酪農家では必要量を賄いきれないため、複数の酪農家が共同で夏場に作っています。

夏が終わり、放牧地から牧場に帰ってきた牛たちは、コンテのためのミルクを大量に絞られた後で、飼料も牧草から干し草に代わるため、お乳の量が少なくなりますが、濃厚な味わいになります。モン=ドールはその少ない量のミルクを使って、酪農家の自家用チーズとして作られていました。それが「牛飼いのチーズ」と呼ばれた所以です。山間部では冬に積雪があるため、大量の牛乳をアトリエまで運ぶこともできなくなります。そこで、モン=ドールは、コンテのような大型のものではなく、少量でも作りやすく熟成も早いコンパクトなサイズになっているのです。

オーブンで温めればトロトロのフォンデュに

モン=ドールは、搾乳後24時間以内にアトリエに運ばれた全乳でジャンケット(ミルクを乳酸菌や凝乳酵素で凝固させたゆるい固まり)を作ります。型入れした凝乳を脱水した後、針葉樹のエピセアの樹皮を薄く削り、曲げわっぱのようにした経木をチーズの側面に巻きます。塩漬けが終わると、温度15℃以下、湿度92%以下の熟成庫に運び、エピセアの棚板の上に置いて毎日裏返して表皮を塩水で揉み洗いしながら、エピセアの木枠のなかで熟成させます。熟成期間は最低21日間。出荷の際にもエピセアの木箱に入れられ、終始エピセアの香りに包まれているチーズなのです。

食べる際は1時間ほど前から室温に戻しておくと、モン=ドール特有の滑らかなテクスチャーを楽しめます。また、オーブンで温めてチーズフォンデュのようにいただく「フォン·ドール(Fond d’Or)」も旬のごちそうとして人気です。中央に直径3センチほどの穴を空けて、白ワインとニンニク、コショウを入れ、パン粉をふりかけ、箱が焼けないようにエピセアの容器をアルミホイルで覆い、オーブンで20分ほど加熱します。途中でチーズを混ぜるとより一層クリーミーな質感に。同じく秋冬限定の味覚であるジビエ(狩猟で捕獲された野生動物の肉)のシャルキュトリや茹でたジャガイモ、軽くトーストしたバゲットが添えられ、ふんわりトロトロになったチーズに絡めていただきます。地元であるジュラ産やブルゴーニュ産をはじめとするすっきり辛口の白ワインと相性ぴったりです。

A TABLE!では、日本では珍しいフランス産ワイン、シャンパーニュを取り揃えています。こだわりのフランスチーズには、こだわりのフランスワインを。モン=ドールが手に入ったら、秋の到来を感じながら、お好みのワインとのマリアージュをお楽しみください。

<参考文献>
「フランスチーズ図鑑」磯川まどか著(柴田書店)
「10種でわかる世界のチーズ」村瀬美幸著(日本経済新聞出版社)
「プロフェッショナル·チーズ読本」木村則生著(誠文堂新光社)