みんな大好き!フランスの代表的お惣菜「キッシュ·ロレーヌ」

日本でもすっかりおなじみのキッシュは、世界中で最も知られているフランス料理の一つ。どんな具材を入れてもおいしく仕上がる懐の深さがキッシュの大きな魅力です。そんな偉大なキッシュの元祖「キッシュ·ロレーヌ」をご紹介します。

どんな具材もおいしく変身する魔法のお惣菜!

世界中で人気のお惣菜「キッシュ」。日本でもパン屋さんで見かけることが多い定番メニューで、お店によってスタイルもさまざまなのが魅力です。キノコにホウレンソウ、アスパラガスやズッキーニ、ミニトマトなど幅広い野菜と相性がよく、キッシュになればアイデア次第でなんでもおいしく変身してしまう魔法のお惣菜です。

そんな懐の深いキッシュはフランス生まれ。「タルト·サレ(tarte salée:塩味のタルト)」の一種です。タルト生地やパイ生地に、肉や野菜などの具材と「ミゲーヌ(migaine)」と呼ばれる卵と乳製品を合わせたたね生地を流し込み、オーブンで焼き上げてつくります。ミゲーヌとは、ロレーヌ地方での呼び名で、フランシュ·コンテ地方では「グモー(goumeau)」、その他のフランス地方では「アパレイユ(appareil)」と呼ばれ、日本では「アパレイユ」という呼び名が一般的です。

ミゲーヌに使う乳製品は、伝統的なスタイルでは生クリームだけを使い、牛乳、ヨーグルト、フロマージュブラン(白チーズ)を使うものはモダンスタイルとされています。チーズにはエメンタール、グリュイエール、コンテ、リコッタ、パルメザンなどを使用。ミゲーヌの卵の比率が高いとプリンのようにぷるんと固めの食感に焼き上がり、牛乳や生クリームの比率が高くなると、とろみが出てきます。作り手の好みでさまざまな食感にできるのが魅力です。

元祖「キッシュ·ロレーヌ」は、ロレーヌ地方の郷土料理

すべてのキッシュの原型とされているのが、ドイツと国境を接するフランス東部のグラン=テスト地域圏、ロレーヌ地方の郷土料理「キッシュ·ロレーヌ(quiche lorraine)」。具材はスモークベーコン、ミゲーヌに使う乳製品は生クリームのみで、牛乳もチーズも使わないのが伝統とされています。この「伝統」の保護と継承を掲げる「本格的なキッシュ·ロレーヌを守るための全国連合(Syndicat National de Défense et de Promotion de l’Authentique Quiche Lorraine:SNDPAQL)」という組織までありますが、ロレーヌ地方の中でもいくつかスタイルがあり、「伝統」のスタイルでのチーズの使用やシャルキュトリの種類については今も議論が続いているようです。

「キッシュ(quiche)」という名前の由来は諸説ありますが、ドイツ語でケーキを意味する「kuchen」、あるいはロレーヌ地方の言葉で料理を意味する「kich」から来ていると言われています。ブドウや小麦など農作物や、鉄と石炭の一大産地であるロレーヌ地方は、アルザス地方とともに、フランスとドイツが1000年にわたって争奪戦を繰り広げてきた地域。18世紀半ばにフランス領となったものの、戦争の度にドイツとフランスの間を行き来し、第二次大戦後にフランスが領有権を回復して現在に至っています。もともとゲルマン語圏に属し、ドイツ系住民も多い地域で、フランスとドイツの両方の影響を受けてきた歴史が料理名にも表れているのですね。

余ったパン生地の有効活用から生まれた家庭料理

キッシュ·ロレーヌはもともと家庭料理として親しまれていました。かつて、人々は集落にある共同の窯でパンを焼いていましたが、みんなでパン作りをする日に、余ったパン生地を使ったシンプルな料理としてシェアしていたと言われています。記録として歴史に登場するのは、1586年3月1日にロレーヌ公爵(ロレーヌ地方にかつて存在した神聖ローマ帝国の領邦の一つ、ロレーヌ公国の君主)の家で作られ、その少し後にナンシーで作られたのが最初と言われています。

アンシャン·レジーム期のロレーヌ地方の日常生活を描いたフランスの歴史家、ギィ·カブルダン(Guy Cabourdin)によれば、ベーコンとミゲーヌが厚くなったのは19世紀に入ってからとのこと。土台になるタルト生地も、もともとは薄かったものが、徐々に厚みを増していきました。余りもののパンの活用から生まれたものが、一つの料理として進化していったのです。

「キッシュ·ロレーヌ」の親戚いろいろ

伝統的なキッシュは、ロレーヌ地方の周辺にもあります。ロレーヌ地方のお隣、アルザス地方のキッシュは「キッシュ·アルザシエンヌ(quiche alsacienne)」と呼ばれ、ベーコンのほかにたっぷりの炒めた玉ネギ、チーズが入ります。コクと甘みがあり、広く親しまれているキッシュです。また、ロレーヌ南部のヴォージュ(Vosges)に伝わる「キッシュ·ヴォジエンヌ(quiche vosgienne)」は、キッシュ·ロレーヌにチーズを入れたもの。ヴォージュはロレーヌ地方にある県のため、これも含めて「キッシュ·ロレーヌ」とする考え方もあることから、“伝統”の定義に、チーズを使うか使わないかの議論があるのですね。

現在では、グリーンサラダを添えて前菜として熱々を食べることがほとんどですが、高さや厚みがあればメイン料理になることもあります。最近は “キッシュのタルト抜き”なんていうレシピもあります。リッチな卵焼きという感じですね(笑)。作り置きしておけるキッシュは軽食やアペロのお供にもぴったりです。

そんなさまざまなシーンで楽しめる「キッシュ·ロレーヌ」がA TABLE!に新登場! A TABLE!のキッシュ·ロレーヌはチーズを入れるスタイルです。放牧卵と純生クリームだけを使う伝統的なアパレイユ(ミゲーヌ)に、香ばしく炒めた熟成ベーコンと上質なスイス産A.O.P.グリュイエールチーズを贅沢に加え、コク深く、ふんわり軽やかな口当たりに仕上げました。すっきりした白ワインとの相性も抜群です。濃厚な味わいが恋しくなるこの季節に、豊かな香りが立ち上るアツアツの焼きたてをぜひお楽しみください。

A TABLE!のキッシュ・ロレーヌ

(参考)
「保存版 タルトとキッシュ プロ10人が考える、おいしさの組み立て方」柴田書店