個性豊かなフランス郷土料理(後編:北フランス)

「フランス料理」と一口にいっても、地方によって実に個性豊か。その土地の気候風土に根ざすものを尊重する「テロワール」(terroire:大地、土地)の哲学は、「人間の体と、暮らしている土地·環境は密接につながっている」という日本の「身土不二」の思想にも通じるものがあります。後編では北フランスの伝統料理をご紹介します。

気候風土「テロワール」を丸ごと味わう郷土料理

フランス人にとって、料理はその背景にある気候風土や歴史文化などを感じながら、五感を総動員してその土地を丸ごと味わうもの。「テロワール」という食の哲学により、料理にはその土地の食材を使い、ワインやチーズも同じ地方で生まれたものを合わせるのが一番おいしい、という考え方が基本にあります。すべてを生みだすテロワールを重視することから、かつて「土を味見する」ということすらあったといいいます。

後編では、ヨーロッパ本土にあるフランス13の地域圏から、今回はフランス北部にある8地域圏の風土と代表的な料理をご紹介します。首都パリに近く、王侯貴族に愛された料理も多数。その料理が生まれた土地をイメージすることで、料理を味わう楽しみが何倍にも広がるはずです。

オー=ド=フランス Hauts-de-France

(旧呼称:ノール=パ·ド·カレ=ピカルディ)

フランス最北端に位置し、西はドーパー海峡に面しています。首府はリール。ベルギーと国境を接するフランドル地方はベルギー西部にかけて広がる文化圏に属するため、郷土料理やお菓子もベルギーと共通するものが多くあります。アンディーヴ、ジャガイモ、小麦の一大産地として知られています。ブドウ栽培の北限を超えているためお酒はビールが主流で、料理にも多用されています。

●カルボナード·フラマンド(carbonade flamande)牛の肩肉の黒ビール煮

●オシュポ(hochepot flamande)ポトフの一種

●魚のワーテルゾイ(waterzooï de poissons)淡水魚(マス、鮭など)のクリーム煮

●雄鶏のビール煮(coq à la bière)

グラン·テスト Grand Est

(旧呼称:アルザス=シャンパーニュ=アルデンヌ=ロレーヌ)

フランスの北東部にあり、ベルギー、ドイツ、スイス国境に接します。首府はストラスブール。世界最高峰のスパークリングワイン「シャンパーニュ」(シャンパン)は、シャンパーニュ地方でつくられ、規定をクリアしたものだけが名乗ることができます。川が多く、淡水魚の料理も豊富。森林や山地が多い北部のアルデンヌ地方ではジビエ料理が盛んです。アルザス地方は第二次大戦後までドイツ領だったこともあり、ドイツ文化の影響が色濃く見られます。ビールの醸造量は国内生産量の半分以上を占めます。

●キッシュ·ロレーヌ(quiche lorraine)

●野ウサギのテリーヌ(terrine de lièvre)

●鮭の揚げ物(carpe frite)

●アルザス風シュークルート(choucroute à l’alsacienne)

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イル·ド·フランス地域圏  Île-de-France

フランスの中北部に位置し、首都パリを擁する地域圏です。セーヌ川、マルヌ川、オワーズ川などの川に囲まれ、島のような地形になっていることから「フランスの島」と呼ばれています。ベシャメル、モルネー、ベアルネーズといったフランス料理に欠かせない定番ソースもこの地方で誕生しました。料理名に「パリ風」と付く場合、付け合わせにジャガイモとサラダ菜の蒸し煮やアーティチョークの芯などが添えられます。

●オニオングラタンスープ(gratinée)

●パリ風ポタージュ(potage parisien)

●豚のコート シャルキュティエール風(cote de porc charcutière)

●パリ·ブレスト(paris-brest)

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ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ Bourgogne-Franche-Comté

フランス中東部に位置する地域圏で、首府はディジョン。高品質を誇る世界的な赤ワインの名産地として知られるブルゴーニュ地方は古くから交通·通商の要所で、中世からフランスの食文化において高い地位にありました。料理に「ブルゴーニュ風」と付く場合は、赤ワインを使い、ネギ、キノコ、豚バラ肉の棒切りが付け合わせになることが多いようです。フランシュ=コンテ地方は、フランスでもっとも消費量の多い「コンテ」に代表される品質の高いチーズ産地として知られています。

●エスカルゴのブルゴーニュ風(escargots à la bourguignonne)

●牛肉のブルゴーニュ風(bœuf bourguignon)

●ウサギのディジョン風(lapin à la dijonnaise)

●サクランボのスープ(soupe au cerises)

ノルマンディー Normandie

英仏海峡に面し、高緯度ながら温暖な気候のエリア。首府はルーアン。沿岸部では、舌ビラメ、タラ、ニシン、ムール貝、カキ、ホタテなど魚介類が豊富。内陸地は酪農地帯で、良質な牛乳から作られるバターや生クリーム、チーズなどの乳製品が高い評価を受けています。ブドウが育たない土地のため、ワインの代わりにシードル、カルヴァドスが有名。「ノルマンディー風」の料理には、多くの場合バター、生クリーム、リンゴ、シードル、カルヴァドスが使われます。

●メール·プラール(プラール母さん)のオムレツ(omelette de la mère Poulard)スフレオムレツ

●舌ビラメのフィレ ノルマンディー風(filet de sole à la normande)

●鴨のルーアン風(canard à la rouennaise)

●リンゴのブルドロ(bourdelot aux pommes)

ブルターニュ Bretagne

フランス北西部に突き出した半島。1,100kmに及ぶ海岸線を誇る沿岸部は魚介の宝庫で、漁獲量はフランス全土の約30%を占めます。かつてはソバくらいしか育たない痩せた土地でしたが、現在は高緯度ながら温暖な気候を利用した農業が盛んな「黄金地帯」。食肉の生産も盛んで、豚肉の生産量は国内の5割を超えます。アンドゥイユ、パテ·ド·カンパーニュ、ブーダンなど、伝統的なシャルキュトリが豊富で、若鶏、乳牛もフランス屈指の飼育数を誇ります。

●ソバ粉のガレット(galette de sarrasin)

●ブルターニュ風ポテ(potée bretonne)

●ホタテ貝のブルターニュ風(coquille Saint-Jacques à la bretonne)

●キッカ·ファルス(kigha fars)

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ペイ·ド·ラ·ロワール Pays de la Loire

フランスで一番長いロワール川の下流域を中心とした西部エリア。首府はナント。温暖な気候と河川流域の肥沃な土壌で、国内有数の農業地帯。牧畜や園芸も盛んで、牛の飼育頭数はフランス最大。リエットやハムなどのシャルキュトリにも定評があります。揚がる淡水魚の種類も豊富。天日乾燥海塩の「ゲランドの塩」も有名です。

●ル·マンのリエット(riellettes du Mans)

●ウナギのブイユテュール(bouilleture d’anguilles)ウナギの赤ワイン煮

●子牛のカジのアンジュー風(cul de veau à l’angevine)

●ボトロー(bottereau)揚げ菓子

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サントル=ヴァル·ド·ロワール Centre Val de Loire

ロワール川中流域に広がるエリアで、首府はジャンヌ·ダルクとゆかりの深いオルレアン。ロワール川の支流も多く、肥沃な土壌と温暖な気候で、「フランスの穀倉」と呼ばれる広大な平野があり、フランス最大、ヨーロッパでも有数の小麦生産量を誇ります。トウモロコシやビーツ、玉ネギ、キノコ、緑レンズ豆も国内有数の産地。ヤギの乳から作るチーズも高品質なものが多く、最高級とされるリエットも名物で、素材の良さを生かしたシンプルな料理が多い地方です。

●トゥールのリエット(rillettes de Tours)

●復活祭のパテ(pâté de Pâques)豚と子牛のひき肉を使ったパテ

●羊のモモ肉の7時間煮(gigot braisé à la sept heures)羊のモモ肉の蒸し煮

●タルト·タタン(tarte Tatin)リンゴのタルト

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フランスの各地に根付いている多彩な郷土料理の数々が、フランスの高度な食文化を支えています。フランスにおいても食のグローバル化や大規模な工場生産は増えていますが、サステナブルな自然農法や伝統製法にこだわる小規模のメゾンやアトリエも多く、原材料や製法に厳しい基準を設けた地域ブランドの各種認証制度により、地域独自の食文化、品質、環境を守る仕組みづくりが進んでいます。A TABLE!では農法や製法にこだわったフランスワインも厳選して取り揃えています。料理やワインを選ぶ際は、ぜひ産地にも注目してみてくださいね。

(参考)
「フランス料理ハンドブック」辻調グループ 辻静雄料理教育研究所編著(柴田書店)
「フランス郷土料理」アンドレ・パッション著(柴田書店)